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〇月✕日『新居』
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「ごめんね、疲れたでしょ」
山梨先輩がペットボトルを僕に差し出してくれる。
それを受け取りながら僕は首をふった。
「平気です。いい部屋ですね」
窓を全開にし、ベランダに二人で腰掛けながらワンルームの部屋を見渡す。
駅からは少し歩くけど、日当たりのいい良い部屋だ。
「引越し、卒業してから入学の間にしようかと思ったけど、今の方がよっぽど暇だからさ。入学間近はバタバタしそうだしね」
そう言って先輩はペットボトルに口をつける。
「おい、自分たちだけ休憩かよ」
タオルを頭にまいて、鬱陶しそうに額の汗を拭いながら矢野くんが僕らのそばに座る。
「ありがと、感謝してるよ」
先輩が満面の笑みで矢野くんにペットボトルを差し出す。
矢野くんの眉間に出来た皺がみるみるなくなっていく。
好きな人の笑顔一つで怒りは吹き飛ぶようだ。
笑顔の威力の凄さを目の当たりにしてしまった……。
「……つか、荷物少なくね?」
「まだ時間はあるし、今日は大きいものだけ。少しずつ揃えていくよ」
「ふーん」
「二人が手伝いに来てくれたからあっという間だったよ。ほんと、ありがとう」
この部屋で、先輩の新しい生活が始まる。
きっと、矢野くんも……。
それを、僕は平常心で受け入れられてる。
あんなに、嫌で嫌で仕方なかったのに。
「柚野ちゃん、よかったらいつでも遊びに来てね」
「ぁ、はい」
「いやいや、俺は?」
「君は言わなくても来ちゃうでしょ」
三人で笑い合う。
こんな穏やかな日を過ごせるのも、心が穏やかな証拠だ。
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