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帰る場所
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明日からの予定だったが新の提案で泊まりは今日からという事になった。
という事で、一度俺の家に寄って準備を済まし、今は新と近くのスーパーに来ている。
「眼鏡、油ってこれでいいのか?」
玉ねぎが大量にあるらしいから、今日の夜ごはんは野菜炒めに決定した。
サラダ油とオリーブオイルを持って来た新に「それでいい」と伝え両方とも買い物カゴの中に入れさせる。
豚肉と野菜炒めの具になる食材を購入し、生卵と、ついでに味噌も買っておいた。
これで明日の朝ごはんもなんとかなるだろう。
スーパーを出て、新の家へと向かう。
お互いに買い物袋を手に持ち、並んで歩きながら話しをしていた。
話しとは、ごく普通のくだらない事。
昨日見た夢の話しとか、授業中居眠りをして先生に叱られたとか、暑くなってきたな、とか。
そんなたわいの無い事を、新はいつになく嬉しそうな顔をして俺に話してくるから、少し調子が狂う。
「?…なんだよ」
まるで友達同士みたいなこの距離感が面白くて、思わず笑ってしまうと新は眉を顰めた。
「いや、なんでもない」
新は普段、クラスメイトの前ではこんな感じなんだろうか。俺の前では常にムスっとしてるし、機嫌が良い時のこいつを見ていると、普段は見えないこいつの部分を知る事が出来た気がして楽しい。
「そういや、お前進路どうなったんだよ?」
突然、新がそう尋ねてくる。
「まぁ、それなりに上手くいきそうかな」
「大学は行くんだよな?」
「……………」
新の言葉に足を止めてしまう。
不思議に思ったのか、新も歩みを止めてこちらの顔を覗き込んで来た。
「眼鏡?」
大学か。あと半年もすれば、俺は卒業してどこかの大学に通って、新とはいずれにせよ離れ離れになるんだよな。それが少しの間だったとしても。
「大学は……まだ考え中」
「え、なんでっ、お前頭良いんだから良いとこ行けるだろ」
新とは最近、メールとかで結構進路の事について話したりしていた。
俺が何を目指すのか、新が何を目指すのか、互いに把握し理解し合っている。
でも俺の目指す職業は、大学卒業資格が必須というわけではない。
「行けよ。行けるのに行かねえのは勿体ねえぞ」
「そうだな…」
こういう話しをしていると、つくづくお前と同じ年に生まれたかったと思う。
一年の差は、結構でかい。
こうなったらいっその事留年でもしてやろうか。
「あ、でももし大学行く事になってもちゃんとお金は貯めとけよ」
「?ん?なんで?」
新の家がすぐそこに見えてきた。
俺の前に回り込んで、ズイ、と指をさされながらそう言われ、俺は首を傾げた。
「なっ、まさか忘れたのかよっ⁉︎」
「………?……」
「っ……俺が卒業したらの話しだよ……」
買い物袋を持った、2人の影が重なる。
「……一緒に……暮らすんだろ…?」
「……………………」
赤くなる顔で俺を見上げながら、弱々しく呟いた新の言葉に、胸がどきりとする。
「くふっ…」
「おい、なにが可笑しいんだよ…てめえが言ったことだぞ」
怒った顔を見せる新の耳は真っ赤になっていた。
買い物袋をブンブンと振り回しながら、「笑うなボケ」と俺の事を攻撃し始める。
暫く新からの攻撃をかわしながら、やがて大人しくなって俺の前をトボトボと歩き出す新の背中が、夕日で照らされる。
目の前に居るこいつと、俺と、帰る場所が同じになったら毎日がどんな風に変化するんだろうか。
どちらかの家じゃなくて、俺と新の家。
こんな風にスーパーで買い物して、家に帰ったら一緒に飯作って、風呂に入って、同じベッドで寝て。
誰にも邪魔されない2人だけの場所。
「覚えてるよ。ちゃんと」
ボソリと呟いた言葉は、きっと新には聞こえてなかった。
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