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不思議と
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約束の時間まで残り5分。
新はいつも5分前にはここにやって来る。
「新…?」
扉がゆっくりと開き始めると、心臓がどくんと脈を打った。
「失礼しまぁ〜す…って…あれ、いっちゃん?」
「…………」
扉へと伸ばした手が、少しずつ下に落ちて行く。
「おおっ!いっちゃん久しぶり!あけおめことよろ!」
僕を見るなり目をキラキラと輝かせピースサインを見せてくる。
中へと入って来たのは、新でも成海でも無かった
「………日野…なんで」
どうして君がこんな朝早くに…?
「いやぁ〜センセぇに生徒会室にあるガムテープありったけ持って来い言われてなぁ〜!」
「ガムテープ?」
「そ!今日たまたま朝早くに目が覚めて学校来たら『暇なら始業式の準備手伝え』ってセンセぇに捕まってしもうたちやぁ〜」
「………」
たまたまって……よりによって今日来る事ないでしょ…
いつも遅刻ギリギリのくせに
「んで、いっちゃんはどうしたが?いっちゃんもセンセぇに頼まれてここにおるが?」
さっきまでの緊張感がゼロになる。
ん?ん?と言いながら日野が顔を覗き込んで来る
「僕は普段からこの時間には登校してるよ。ほら、ガムテープなら奥の棚に仕舞ってるから。それ持って早く行って」
部屋の奥を指差して、早く出て行ってほしいと目で言った。
約束の時間まであと3分…
新と会う前に日野がここに来るなんて予想してなかった。
これから大事な話をするというのに、一番リズムを乱される相手と二人きりになるなんて
「あったあった!おっ黒いガムテープ!なんかエロいなあ〜」
「…先生達待ってるんでしょ?早く行ってあげて」
溜息を吐きながら時計を何度も見ていると、
ガムテープを両手いっぱいに持って、日野はまた僕の方に近寄って来た。
「なに?」
僕より背の高い日野は、顔を同じ高さまで下げ、目を細め僕をじっと見つめてきた。
「……なに?…」
「…ん〜………」
全身を舐めるように見られ、少し後ずさりをしてしまう。
やがてコクリと頷いた日野は真剣な顔で口を開いた。
「やっぱ美人やな…」
「は?」
「よし決めた!俺いっちゃんお嫁さんに貰うわ!」
「ちょ…」
お嫁さん?
「……残念だけど僕は男だよ」
「んふふ〜、知っちゅうよ?」
歯を見せて笑った日野は、またふざけた事を言い残して部屋から出て行こうとした。
鼻歌を歌いながら上機嫌な日野の背中を見つめていると、日野は振り向いて怪しく笑った。
「なぁいっちゃん」
「……?」
「俺ならいっちゃんを幸せに出来ると思うで?」
「………」
「んじゃ、また後でね〜!」
「…………」
扉がぴしゃりと閉められ、一気に部屋が静かになる。
時間は7時32分…
約束の時間は過ぎてしまい、新が来る気配はまだ無かった。
「はぁ……」
ソファに腰を掛けると、先程の日野の怪しげな笑顔が頭に浮かぶ。
「幸せに出来る…」
張り詰めていた緊張が一気に解けてしまった。
いい加減な事を言って、また僕を困らせようとしてる。
「僕は君みたいな人が一番嫌いなんだよ…」
誰にでも言ってるような口振りで
幸せに出来るなんて言われても何とも思わない。
不愉快だ
「……幸せに……ね」
だけど、不思議と心は落ち着いていた
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