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もう大丈夫ですよ
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扉が開いた瞬間目を見開く。
この状況を誰かに見られでもしたらまずい。
それだけが頭の中に巡っていたが、願うも虚しく、扉を開けた人物は僕を見て何が起こっているのかを悟ってしまったようだ。
「だ、大丈夫ですか⁉︎」
一目散に僕のところに駆け寄り、体を支えてくれる。
少しだけ、日野が来る事を願っていた自分がいた。
……でもすぐにそうならなくてよかったと思った。
「月島先輩っ、月島先輩‼︎」
驚愕した表情で、水田くんが僕の体を揺する。
「ゲホッ、ゲホッ……」
「一体何があったんですかっ」
「……っ、大丈夫だから少し静かに…」
「大丈夫じゃないですよ‼︎」
「っ、」
ピン、と響く彼の声。
水田くんはポケットからハンカチを取り出し、それを僕に差し出してきた。
ゆっくりと背中をさすられ、少しずつ僕は息を整える。
「ボクっ先生に知らせてきます‼︎」
「っ駄目‼︎」
咄嗟にそう言った水田くんの腕を掴む。
彼は、 どうして?という顔をして僕を見た。
「いけない……絶対にこの事は誰にも言わないで」
先生にバレるという事は、必然的に父さんにも知られてしまう。
学校の事を任されたのに、僕がこんな有様じゃきっとあの人は失望する。
それに、最悪日野の事だってバレてしまうかもしれない。
「先輩……?」
来てくれたのが水田くんで良かった。
成海達だったらきっと引き止められなかっただろう。
すぐに先生に知らせに行くはずだ。
「君はどうしてここに?…」
「ボクは月島先輩に今回の件について報告をしに来たんです」
報告?
何か情報を掴んだと言うのか?
「でも、それより先に…先輩、ここから出ましょう!顔色も良くないですっ保健室に」
今度は水田くんに腕を掴まれ、体を支えられながら僕は立ち上がった。
「大丈夫だよ……それに、今僕汚れてるから」
「いいんです…掴まって下さい」
「……‥」
彼は迷う事なくそう答えた。
何も言い返せず、僕は水田くんに連れられ生徒会室を出る。
鍵を閉めてほしいとお願いをすると、彼はそれに従ってくれた。
荒らされた部屋を見つめながら戸を閉め、しっかりと鍵をかける水田くんの手は少し震えていた。
そして、下の階に下り、肩を借りながら廊下を歩く。
人気は無く、とても静かだった。
水田くんが言った様に、大丈夫じゃないかもしれない。
足に力が入らないし、頭も痛い。
「……水田くん、悪いんだけど……」
「?」
駄目だ。今日はもう帰ろう。
考える余裕も、平気な顔をするのも、今の僕には出来ない。
「家まで送ってくれないかな……すぐ近くなんだ」
「え……でも保健室に」
首を横に振る。
このまま保健室に行くより、家に帰って休みたいと告げると、彼は了承してくれた。
「歩けますか?」
「……うん…でももう少し肩を借りてもいいかな?」
「それは全然構いませんけど、先輩の家までどのくらいかかりますか?」
「10分くらいかな……すぐ着く距離だよ」
「そ、そうですか……」
……しまったな。日野に先に帰ると伝えなくちゃいけなかったのに……
そう言えば、携帯……生徒会室に置いてきたままだ…
「ゲホッ、ゲホッ……」
「だ、大丈夫ですか?……」
「っ、うん…風邪引いちゃったのかな」
水田くんにばかり迷惑をかけて申し訳ないな。
なんて思いながら彼に向かい微笑むと、水田くんは唇を噛み締めていた。
「月島先輩は……なんで他の人にもっと頼らないんですか……っ…」
「……頼っているよ?……現に、今君に頼りっぱなしだ」
「っボクじゃないですよ‼︎……なんで上城先輩や渋谷先輩達にちゃんと言わないんですかっ……」
「…………」
誰かに同じ様なセリフを言われた気がする。
あの時は、なんて答えていたっけ……
「…保健室に行かないなら、このままボクと病院に行きましょうっ!体調がひどくなる前にっ」
「いや……病院には行けない」
「ならせめて薬飲んで下さい‼︎」
ピシャリとそう怒鳴られ、少しびっくりしてしまう。
水田くんはズボンの後ろのポケットから財布を取り、その中から何かを取り出した。
「これ頭痛薬ですけど、水無しでも飲めるやつです」
「…………」
「ボク、偏頭痛持ちで……いつもこうやって持ち歩いてるんです……今はこれしか出来ませんが…………お願いですから…もっとご自分の事を大切にしてください……」
「…………」
なんで水田くんは泣きそうな顔をするんだろうか。
「これ飲んで少し休んだら帰りましょう?」
「…………うん、ありがとう……」
薬を受け取り、口の中に入れる。
噛んで飲むタイプの薬の味は苦くて、あっという間に舌の上で溶けてしまった。
少しだけ、舌がビリリとする。
「水持って来ましょうか?……それかやっぱり誰か呼んで……」
「いや、大丈夫」
中央階段の下にある少し広めのスペースに腰を下ろし、僕は天井を見上げた。
暑いのに、体は冷えてしまっている。
水田くんが言ってた、今回の件についての報告を聞かなくちゃいけないのに、今は何も頭に入ってこない気がする。
「ごめんね。迷惑をかけてしまって」
「いえ……ボクは全然」
「……家もすぐそこなのに、なんだか遠くに感じるよ。帰ってリリィにご飯をあげなくちゃいけないのにな……」
頭の中がふわふわとする中、これ以上水田くんに心配をかけてはいけないと思い、冗談っぽくそう言ってみると、彼はふふっと笑った。
「ボクも猫飼ってるんですけど、いつも勝手に外に出て行っちゃうのでご飯をあげるタイミングが中々掴めないんですよね」
「そっか……猫って気まぐれだもんね」
「はい……」
「…………」
「………………」
「………?」
……あれ……ボク…“も”?
「……僕、リリィは猫の名前だって言ったっけ?」
「え?」
水田くんの方へ顔を向けた瞬間、彼はニコリと笑って首を傾げた。
それと同時に、体の力が一気に抜け落ちる。
「……ぅ、」
水田くんに寄り掛かるかたちになってしまい、耳元で水田くんの声が聞こえる。
状況の整理が追いつかず、突然の眠気に襲われる。
「み……ずた、く……」
まさか……と思い、そうでない事を願ったが、見上げた彼の顔はまるで別人のようで……
逆光の中で怪しく笑う彼の目を見ると、僕は絶望した。
そして目を完全に閉じてしまいそうになった時、彼は僕の耳元で囁く。
「もう大丈夫ですよ……月島先輩……」
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