アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
僕の最終通告
-
「でも、お父さんの声は聞こえなかった。一度だってそんなことなかったから、急に胸がざわざわしたわ。
嫌な予感が怖くて、パパー?って呼びながらリビングのドアを開けたの。」
ドクン、と心臓の音がやけに大きく聞こえた。
「…お母さんには、眠ってるように見えたの。ソファにもたれかかって、そのまま眠っちゃったみたいに。でも、胸のあたりから下まで、真っ赤だった。」
…父さん。
僕は何も言えなくて、ただ自分の胸のあたりをぎゅっと掴んだ。
「…あとから来た警察の人が言うには、強盗が来て、刺されたらしいわ。でもその時のお母さんには何が起きてたのか全然わからなかった。お父さんの方に歩いてって、起きてって方を揺すったわ。パパ、ねぇ、ただいま…って。」
『パパ、起きて?ねえ…』
それでも、お父さんは起きなかった。
『パパ…?』
揺すっても、揺すっても。
目を閉じて眠ってるみたいなのに、冷たくなってて。
二度と、その目を開くことはなかったわ。
「…なんでかしらね。お母さんその時、「ああ、お父さんいなくなっちゃったのね。」って思ったの。」
僕は初めて、父さんのために泣いた。
「…死んじゃってたのね…っ…」
母さんを見ると、ちょうど涙が一粒落ちた。
「それから、ずっと一人で、アズマを育ててきたわ。大切な人がいなくなったのにっ、不思議と悲しくなくて、でも何かがいつも欠けてる気がしてたの。……受け止めてなかった、だけだったのね…」
帰ってこない。
もう、二度と。
「アズマになんて言えばいいのかわからなかった…だって、私でさえ受け止めきれてなかったから…」
そうだったんだ。
「じゃあ、小学校の時にガンで死んだって言うのは…」
「ごめんね、急にアズマがお父さんのこと聞いてきて、なんて答えたらいいのか分からなかったの。」
だから、父さんとの記憶が全然なかったんだ。
受け入れられない…か。
きっと、ヒトミが死んじゃったら僕もそう思うんだろう。
誰より大切で、愛した人の死。
受け止めるのは、難しい。
「アズマ…こんなお母さんでごめんね…でも、でもね…生まれてきてくれて、ありがとう、ねっ…」
その言葉がきっかけで、二人して馬鹿みたいに泣いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
97 / 112