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Introductory
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僕の中にある一番古い記憶は、とてもとても綺麗な女の人の記憶です。
透けるような白い肌。ばらのように紅い唇。真っ黒な髪は夜露にしっとりと濡れていて、月明かりにきらきらと輝いて見えました。そして、なによりも印象的だったのが闇より深い黒色の瞳。女の人は、その目に涙を一杯溜めて言いました。
「ああ……オドラン……可愛い子。私には、あなたを連れて行くことは出来ない。たとえ、それがロナンのためだとしても……」
僕は、ロナンが誰なのかは知りませんでした。それでも、女の人がとても悲しそうだったので、ロナンのために女の人について行ってあげてもいいと思いました。そう、伝えたかったけれど、声は出ませんでした。言葉にならない悔しさと、女の人とロナンが可哀想なので、僕は泣きました。
女の人は「ごめんなさい」と繰り返しながら、僕の涙を指で拭ってくれました。その指が雪よりも冷たかったので、僕の涙で女の人が溶けてしまわないかと心配でした。
「オドランは、なんて優しい子なのでしょう。ああ……やっぱり、私にはあなたを連れて行くことは出来ない。お家に戻してあげましょう」
相変わらず雪よりも冷たい手で、僕の頬を撫でながら、女の人は泣きました。お家に帰して貰えるのは嬉しいけれど、やっぱり女の人とロナンが可哀想で僕は泣き止むことが出来ません。
「いいのよオドラン。もう泣かないで」
女の人は優しい声で言いました。
「このままお家に帰してあげるから、一つだけ、私のお願いを聞いて頂戴。一年に一度、お祭りの日にはこっそりランタンの火を消して、ロナンと遊んであげて頂戴ね」
声を出せない変わりに、僕は頷きました。女の人はにっこりと笑いました。
そこで僕の中にある一番古い記憶は終わりです。次に僕が目が覚めた時には、もう雪が積もる季節になっていたのです。
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