アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
9
-
「あれ? こんにちは、お久しぶりです」
屈託なく笑う彼に、喜びと罪悪感を覚える。
まさか、お店の外でまで気付いて貰えるなんて。
しかも、ここ一ヶ月程、カフェには行っていなかったというのに。
顔を覚えてもらえていた嬉しさと、気付かれてしまった困惑とが、ぐるぐると心を掻き乱す。
「あ、すみません。
急に言われても分かんないですよね」
無言でいた僕を、勘違いしたのだろう。
ミヤくんはちょっと焦った様子で、謝ってきた。
その様子に、ついつい今度は僕が謝ってしまう。
「いえ、すみません。
カフェのバイトの、…ミヤくん、ですよね。
ちょっとびっくりしただけで、ちゃんとわかりますよ」
「覚えててくれました?
ありがとうございます。
最近いらっしゃらないんで、気になってたんですよ」
社交辞令だとわかっているのに、胸が高鳴ってしまう自分が、イヤだ。
「あー、最近仕事が立て込んでて。
また今度、お伺いしますね」
穢れた自分に気付かれたくなくて、笑顔で取り繕う。
自然に笑えていただろうか。
そもそも、彼は僕にそんなに興味なんてないだろうけれど。
必死に平静を装いながら、ミヤくんに気付かれないようにぐしょぐしょに汗で濡れた手を拭った。
「またいらして下さいね」
そんな社交辞令と営業スマイルを、軽く会釈して見送る。
彼女らしき女性が「だれ~?」と問い掛けながら、ミヤくんの腕に絡み付いた。
胸を強調して、脚を太股まで出した服装。
濃い目のメークに、ゆるふわの長い茶髪。
間延びして媚びるような声音。
こんな言い方は悪いかもしれないけれど、正直、彼の女性の趣味を疑ってしまった。
いや、そもそもが間違っていたんだ。
だって、僕は彼の事を何も知らない。
カフェで僕に向けられる笑顔は、当たり前だけど営業用のそれで。
彼の人となりなんて、微塵も知りようがなかった。
そんな事実が、今更ながらに胸にチクリと刺さる
それでも、何となく彼には知的な女性と付き合っていて欲しかったな。
けれども、彼女も僕なんかに比べたら、雲泥の差、月とスッポン。
そもそも、僕は男なのだから。
比べること自体が間違っている。
彼のプライベートを垣間見て、僕の恋心は現実に引き戻されるかと思いきや、そんなことは全くなくて。
どうせなら、幻滅してしまえれば良かったのに。
それすら出来ない僕は、また一人彼を想うしかないのか。
その晩、僕の夢にはミヤくんが出てきた。
あんなに焦がれた声で、笑顔で、僕を呼んでくれた。
「風間さん」
それだけで、僕は単純にも喜んで。
「ミヤくん」
背の高い彼を見上げて呟くと、その腕の中に引き寄せられて。
「キス…してもいい?」
そんなふうに聞かれて、NOと言うはずなど無い。
コクリと小さく頷くと、柔らかな唇に自分のそれを塞がれた。
幸せな気分のまま目を覚ました僕は、次の瞬間、またしても後悔の念に駆られる。
夢精なんて、いつ以来だろうか。
好きな人の夢を見てイッてしまうなんて、中学生のガキじゃあるまいし。
また、罪悪感に涙を流した。
もう僕の頭は、壊れてしまったのかもしれない。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
9 / 131