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藤川は、おとなしく前を向いたままうなだれて、静かに泣いていた。
まだ切っていない長い前髪のすだれ越しに、くいしばった口元がみえる。
あとからあとから涙はこぼれて、雨だれのような音を立ててビニール袋の表面を
転がり、流れ落ちてゆく。
やばい。もらった。
自分のことなのに、なんで俺がもらい泣きなのかよくわからなかったけど、
慟哭が胸に迫って来て押さえられなくなった。
溢れ出した涙はもう止められない。
腕を使えない藤川がいろいろ垂れ流して泣いてる横で鏡に背を向けて、
俺は右手にハサミを持ったまま、髪の毛だらけの左手で顔を覆って泣きだしてしまった。
でも、なんだか嬉しかったんだ。
気のきいた言葉でも、前向きで建設的な意見でも、
ましてやなぐさめの台詞なんかでもなく。
ただそばで、一緒に泣いてくれる、そのこころだけで充分だ。
こわいよ。
さみしいよ。
つらいよ。
・・・ くやしいよ。
こえに出したくて、出せなかったいろんな気持ち。
大人だから?・・・男だから?・・・みっともなくて。
でも溢れそうだった気持ち。
きっとそれをそのまま感じて、俺のかわりに泣いてくれたんだ。
そう思った。
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