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アパートを引き払って、あとは体ひとつで実家に帰るという前の夜。
藤川がどうしても、と譲らず、俺は彼の家に一晩世話になることになった。
京都の特徴である、間口が狭くて奥行きのある町家を、現代向けに改装された一軒家だった。
彼の母親は朗らかな人で、今夜はゆっくりしていってくれと、
にこやかに俺を歓迎してくれ、心づくしの料理をふるまってくれた。
親父さんはといえば「ザ・団塊の世代」といった感じの無口なひとで、
ほとんど口をきかなかったが、不機嫌なわけでもなく、
夕飯時に自分の席からぬうっと腕を伸ばして俺にビールを注いでくれたりした。
「親父いっつもあんなんなんで、気にせんとってください。」
藤川が苦笑しながら小声で俺に言った。
風呂をもらったあと、藤川の部屋に案内された。
机と、本棚くらいしかない殺風景な和室で、本棚にはマンガ雑誌と並んで、
演劇関係の本が申し訳程度立てられていたが、どうも読んだ形跡はなさそうだった。
部屋のまんなかに、すでに二組の布団が並べて敷いてあった。
「一緒に寝るのんとか、初めてですね。」
嬉しそうにいうな。ばか。
「あ、でも最初会ったとき、ジョーさん寝てましたよね。」
ああ、そうだったっけ。「お前も」
二日酔いで目覚めたら、部屋のすみにうずくまってた少年。
なんだかずいぶん昔のことみたいに思えた。
布団に入って、俺が今まで出演した舞台や、見ておもしろかった映画の話なんかをした。
明日からのことは、どちらも言い出さなかった。
夜更けまで話していたのだと思うが、
ふたりともいつのまにか眠ってしまったみたいだった。
夜明けにふと目が醒めた。
藤川がとんでもない恰好で布団をはねとばして眠っていた。超がつく寝相の悪さだ。
起き上がって布団をかけ直してやる。
無防備な寝顔に、そっと顔を近づけた。
半開きの唇から規則正しい寝息が漏れている。
その唇に。
起こさないように、しずかに、秘やかな口づけをした。
さよなら。
俺のヘンテコな恋。
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