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だけどおかげで覚悟が決まった。
その夜、戻って来た親父が居間に入るなり、その前に手をついて座った。
「なんだ。改まってどうした。」眉を上げる親父に頭を下げた。
「サエキ文具を継がせてください。」
しばらく絶句していた親父が絞り出すように
「つまんねえ文房具屋、だぞ?」と言った。
言われると思っていたからひるまなかった。
「親父の下で働きたい。親父の助けになりたい。親父に・・・・。」
喉がつまって声が震えてきた。
「恩・返し・・・・」もうだめだった。嗚咽になってしまってあとが続かない。
『気持ちいれて演じるのはもちろん大事。けどわあわあ泣いて、
台詞が聞き取れなかったら、観客になんにも伝わらないだろ。』
前に藤川にそんなこと言ったな、と、泣きながら思い出した。
佐伯丈太郎は、もう俳優失格だ。
親父はしばしの沈黙のあと、俺の背中をぽん、と叩いた。
「試用期間は3ヶ月だ。」
それだけいうと、台所からこちらをうかがっていたおふくろに、
「かあさん、風呂。」と言って行ってしまった。
「さっきは飯だって言ってたのに。」おふくろが小声でぼやきながら後を追った。
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