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今まで、自分のことをママたちに語りながら、自分もその道程をたどって来た。
藤川と出会い、彼の前を歩き、そして別れた。
それなのに、今、俺の顔を探しあてた藤川のまなざしを見た瞬間、
ずっと後ろや、遠くを歩いてると思っていた藤川が、
未来に先回りしてきたように感じた。
まるで、俺がここにたどりつくのを、最初から待っていたみたいに。
彼はみちこちゃんにタオルを返すと、大股でずんずんと店内に入り、
まっすぐに俺のほうに向って来た。
歩きながら、途中の、誰もいないテーブルに、持っていたものを全部置いて、
あとは一息に目の前にやってくると、黙って俺を抱きすくめた。彼の肩に、顔が埋まった。
一瞬、呼吸を忘れた。
ようやく呼吸を思い出した時、最初に雨の匂いがした。
それから、藤川の匂い。
出会った頃の、乳臭いような少年の匂いではなく、成長した男の匂いだった。
「あれ」
藤川が腕をゆるめて俺の顔を見た。
「丈さんが小さくなってる。」
「ばか、お前がでかくなったんだよ。」
彼の顔を見上げながら俺が憮然としていうと、藤川はぽかんと開けた口で
「あ、そっか。」
というと、きゅっと目尻にしわをよせて、
「はい。でかなりました。」といった。
なつかしい、藤川の「はい。」だ。・・・と思う間もなくまた抱きすくめられた。
あのひょろんとしてたやつが・・・、背が伸びた。
肩幅も広くなった。胸板も厚く・・・。
俺もその逞しくなった体躯に腕をまわした。立派になったな・・・。
「丈さん。」
「ん?」
「丈さん。」
「なに?」
「丈さん。」
「だからなんだよ。」
「ははは。・・・・呼んでみただけ!」
藤川は、まるでちいさい子供をあやすように俺の体を揺すりながら
嬉しそうにころころと笑った。
こういうところは変わらない。やっぱり子犬みたいだ。俺もつられて笑った。
ああ、待ち合わせをここ・・ニューハーフクラブにしておいてほんとによかった。
オッサンふたりが抱き合って「呼んでみただけ」って、他でやったら・・・。
かなり気持ち悪い。
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