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9.離れて気付いたこと-5
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小野口との出会いは、まだ三善が駆け出しの時だった。
その時の小野口は、新人俳優として花開き、三善みたいな若輩者がとても近くに寄れるような存在ではなかった。
けれど、三善がゲイだと周りに知られた日、突然、一度も話した事がなかった小野口が三善を飲みに誘って来た。
その誘いを、当時の三善は無下にできなくて、直ぐにその誘いに乗り、一夜を共にした。
その時は、小野口と身体を繋げるとは思いもしていなかった。
相手はノンケだと思っていたし、こんな大勢いるスタイリストの中の一人に興味を持ち、関係を結ぶ事なんて考えてもいなかった。
けれど、小野口と二人で飲んでいると、小野口の時々見せる辛そうな顔が、苦しそうな顔が目に付いた。
そして、気付く。
小野口は、辛い恋をしている。
それは、とても辛く、誰にも言えないほどの、深くて底が見えない。
不本意に誰かを騙してしまったような、そんな悲しい表情だった。
「なぁ……。あの時みたいにさ、自分で動いて、リードしてよ」
だから、その時は、三善は小野口の誘いに乗った。
〝抱く側は初めてだ〟と、小さな声で言った小野口の言葉は嘘偽りのない物で、それを信じた三善は、自分から動いてリードしてあげた。
小野口の手付きは本当にぎこちなくて、慣れていない事は真実だとは分かった。
けれど、男同士のやり方は知っていたし、何処が良いのかとかも知っていた。
セックスについては素人ではなく、誰かに抱かれた事はあるのだと、三善は小野口に抱かれながら気付いた。
「もう、あんたは僕じゃなくてもいいでしょ? 男女問わず喰ってるんだからさ……」
小野口との関係は、それから二度は続いた。
でも、小野口が抱く側に自信がつくと、三善との関係は無くなり、更に多忙になった小野口とは、顔を合わす事もなくなった。
「まぁな。……でも、今は何もかも考えられないくらいのセックスがしたい気分なんだよ……。この頃夢見も悪くてさ……。なかなか寝付けないんだ……」
「……そっか」
小野口がそう言うのは、よっぽどだと言うことだと、三善には分かっている。
過去の何かに囚われて、時々、思い出すのだろう。
そう言う所が自分に似ている。
けれど、今の自分は小野口の力にはなれない。
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