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望
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政府公認の遊郭地帯である赤線が復活して早二十余年。
それからすぐに、俺は此処に連れられて来た。
遊女を置く遊郭に伴って、男娼のみの陰間(かげま)茶屋も赤線に指定される事になったからだ。
煌びやかな着物に身を包んだ男達が闊歩するその淫靡な雰囲気に、何も分からない幼子ながらも息を飲んだもんだ。
もちろん、客を取るのは十八になってからだが、見世の者と養子縁組して幼い頃から作法や芸事を仕込まれるのが暗黙の了解になっている。
元々ちゃんとした格が無かった陰間だが、遊女に倣って太夫(たゆう)、格子(こうし)、散茶(さんちゃ)……なんて格付けが出来ちまったもんだから、英才教育された俺等みたいなのは太夫候補になるって訳だ。
実際、十八になって自ら此処の門を叩いた奴等で太夫まで昇り詰めるのは滅多に居ない。
太夫だった俺は、去年その座を弟分に譲って引退した。
この見世で育てられた兄弟の中では初の太夫を勤めた事もあり、遣り手と言われる統括業務に就く事になった。
同時にそれまでの遣り手だった若旦那が主人になったんだが、このポジションに就てみると中々どうして。
「どいつもこいつも一癖あるんだよな……」
「望兄さん!」
「おぅ、どうした?」
「ごめんなさい、今日の事務仕事少し手伝ってもらえませんか?いいよね?いいよ!」
「おい自己完結してんじゃねぇぞ」
番頭の涼に端末を押し付けられる。
人の話聞いちゃいねえな。
「理由によっちゃぁ手伝ってやるよ」
「稔が熱出して寝込んじゃって」
「大丈夫か?」
「往診してもらったら風邪だって」
稔は太夫付きの禿(かむろ)だ。
所謂陰間見習いで、床の準備や番頭がお客を迎えたら太夫を呼びに行ったりと要は雑用係だ。
「最近稽古も根詰めてたんだろ?」
「そうなんだよね……あ、そろそろ来る頃かな」
「絹雲の?」
「そ、四朗さん。迎えに行って来ます」
バタバタと、嵐のように去って行く。
今日は忙しくなりそうだ。
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