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最終章 珈琲は苦くゆず茶は香る
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それからと言うもの、龍希は手持ちの本を、ニイダ出版と、それ以外の出版社とで分けて並べては何やら嬉しそうにしていたり、
買うかどうか悩んだ本が、ニイダ出版と記名されていたなら、迷わず購入してくる程には、
ニイダ出版探しがマイブームとなっていた。
「……まぁ、出版社も近年厳しくなってきてるしな、買ってくれるのは嬉しいけどな………」
本屋に行くのが多くなった流れで、本を手にする事も増え、突然読書家になったような龍希を呆れたように見守りながらも、こいつは意外と流されやすいし無趣味なんだよなぁ。と、新たな龍希を発見しながら、貴仁は日々本の会話を彼と出来ることを喜んだ。
「日野栄介って作家良かった。あとね、佐久咲良さんのも泣けたー。」
「何だ、ミステリーかと思えば突然純文学にいったな。」
などと本を話題にした会話を楽しむ時間はここ最近の二人のお決まりだった。
貴仁は当然本の知識が多くて、龍希はお薦めを読んだり、逆にこっちの方が好きだ。などと薦め返したりしては縁側に寝転んで二人、本に読み耽った。
仕事と洋服意外の趣味が特別無い龍希は、相手の趣味をとても自然に尊重する事が出来た。
日々は二人をどんどんと恋人らしくしていき、
そして、どんどんと共にいる喜びを滲ませた。
二人は普段、外ではあまり手を繋ぐわけでもないし、恋人らしく振る舞うわけでも無い、
龍希はやはり仕事場では恋人の話題を避けているし
恋人は女性だと言う事にしておくシーンも相変わらず多い。
その分、家では存在を近く感じるし当たり前のように愛しているよと確かめあえた。
二人の共通の話題となった本の会話の時間はどんなに普段言いにくい事でもすらりと伝えられる気すらした。
その魔法のような時間を貴仁は、活用してみようかとこの日、思っていた。
縁側に座り、本を読む龍希はたまに「この作家はさ」などと話を振ってきたので、読書をしていてもなお、ここには会話が存在していて、
貴仁はその空気にまかせ、まるで息を吐くように容易く、その言葉を口にした。
最近、少し気になっていた事だった
「……なぁ、龍。最近どうした?あまり眠れて無いだろう?」
普段なら、少し身構えてしまう事をとても容易く聞くことが出来た。
人と人とのコミュニケーションに共通のツールと言うのは必要なものであると言えよう。
現に、その質問に少し時を止めた龍希は、それでも素直に答えた。
「うん……実はね、まだ全く決定してないみたいだし、違うかもしれないんだけど、ね?」
読んでいた本に栞を挟むと、龍希は一旦途切った返事の言葉を改めて続けた。
「………あのね、父さんが、戻ってきて家で暮らすことになるかもしれないんだって。」
少し伏し目がちに話す龍希が、沈む夕日に染まってなんだか美しいな。などと思うべきシーンを、容易く緊張感の有るモノクロに変えてしまう力を持つ内容の言葉が返ってきた。
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