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___早く、よくなるといいのにね。
背中の傷を見られたとき、アンジェリーは深く聞くことはせず一言優しく呟いて悲しそうに笑った。
もう何年も前の傷で今は俺自身、当時の痛みや感情なんて思い出すこともない。
それなのに、今は自分の今現在の傷を大したことないと笑う。
他人に興味を持つことなんてあり得ないと思っていたけれど、あの時、背中に触れた指があまりにも優しかったから、自然と口が開いた。
「…今からいうのは、軽く聞き流せな。
俺の母親は、一度浮気してさ」
蒼羽しか知らない俺の過去が、不思議なほどこいつの前だと言葉になった。
「父親はすごい愛妻家で。盲目的に母親を愛しいて。母親も父親も全部俺の実の父親、浮気相手が悪いってことで落ち着いたんだけど。育ての父親にはまぁまぁきつく当たられたよ」
アンジェリーは小さく、うん、と相槌をうった。
「っつっても、中学からはまぁまぁ体もでかくなって、家にいることも少なかったし、建前上はいい愛妻家の優しいお医者さんだったから、今はなんの不自由もなく普通に育ったし、仕事について独立すると、そんな昔もあったな。くらいになんだよ。でも、当時を思い出すと、それなりにしんどかった気もする」
話ながら、アンジェリーの傷を一つ一つ消毒して丁寧にガーゼを張り直した。
「時間が多少は解決することも確かにある。だからって、お前が今を我慢する必要はない。へらへら笑って大丈夫だってみんなに虚勢をはる必要はないんじゃねぇの。頼られたら、それなりに助けになると思うけど」
俺は少なくともこいつの年のころは女をはべらかして、適当な恋愛ごっこをして、気楽に生きていたと思う。
俺を見て頬を染めてよってくる女は自ら体を委ね軽々しく「アイシテル」と、安っぽいことばをいう。
当時、幼い俺が嗤ってる気がした。
愛情なんてもの、今さら知りたいとも思わない。
父親の母親への愛も、ただの自分の所有物をとられたくないという安っぽいプライド。
愛してると、一度でいいから親に言ってほしかった。毎日泣いていたガキの頃。
いざ、いろんな女から言われてみると、そんな愛なんて下らない感情が本当にあるんだと、そしてそれが綺麗なものなんだと押し付けてくるものが酷く濁った何かに見えた。
そんな汚い押し付けをしてくる奴らの捌け口になってやる必要なんてない。
人の痛みにばかり敏感なこいつはもっと自分を気にかけたらいいと思った。
しばらく続いた沈黙を、アンジェリーがゆっくり口を開き終わらせた。
「時間が解決するって言ってもね。せんせーが傷付いたことに変わりはないと思うよ」
俺のことかよ。
拍子抜けしてしまう。話の流れ的に俺のはものの例えでお前のことだと言うのに。
「せんせーは優しいね。子供は親を選べないけど、それでも自分の気持ちの消化の仕方を見つけて、それを人のために話せるから。親から、たとえ愛情が貰えなくても、そんなせんせーだからいろんな人から好かれて愛されるんだね」
「………お前は器用なのか不器用なのかわかんねぇやつだな」
なにが、愛されてるだよ。
根っからのお人好しというか、本当に心優しい奴なんだろう。
こんな華奢で小さい体じゃ高校生と言えどまだまだ大人の力には敵わないんだろと、細い体を見て思う。
なぜわざわざ殴られにイギリスに行くのか不思議でならない。
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