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december.3.2015 トアの家でハル想う
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「うわ~お邪魔します!トアさんのお家初訪問ですね」
「なんだか照れますね」
「そういうの置いておけば鍵とかワチャワチャしないのですね」
「あ~この皿ですか?ここに引っ越した時に兄がプレゼントしてくれました」
「へえ、お兄さんいるのですか」
「歳が離れていますから、兄というか叔父さんみたいな気になりますよ、たまに。
玄関で立ち話もなんですからどうぞどうぞ」
今日の中休みにハルさんとマッタリしていたら、トアさんの部屋ってどんなところですか?と聞かれました。どんなところ、分譲マンションの賃貸で、2DKのなんてことのない部屋です。そう答えたら、今度遊びにいきたいです。そんなことを言ってくれたので舞い上がりました。
この部屋に人が来ることは滅多にありません。
友人とは外で食事しながらが定番だし、SABUROで働くようになってからは休みが合わなくなりました。それに仕事あがりが遅いので飲み会に誘われる機会が激減です。
ますますDVDとお友達な毎日だったので、勢いのあまり「今日はどうですか!」と口走ってしまいました。
洗濯は月曜にしたので部屋にブラブラしていないし、掃除も同じくすませてあります。買い物だって行ったので冷蔵庫にはビールも入っているし、色々コンディションがバッチリです。
リビング兼キッチンのスペースはほぼキッチン化しております。それほど料理は得意じゃないですが、映画に出て来る料理が美味しそうだと真似をしたくなります。
結果ですか?映画にでてくるキラキラした一皿になったものはひとつもありません。鼻をつまんで食べることも……。
特に「ディナーラッシュ」にでてくるロブスターの料理。生クリームにバニラビーンズ、揚げたパスタとロブスター、あとレモンだったかな。ロブスターがないのでブラックタイガーにしましたが、出資のわりに味は「?」でした。普通にクリーム煮にしたほうが美味しかったと思われます。 なんとかキュイジーヌとか出てきますが、あれもさっぱりわかりません。味に関して僕は凡人なのでしょう。
自慢のリビングには大画面のテレビがあります。あとはソファとテーブルだけ。
テレビ周りがゴチャゴチャしていると画面の邪魔になるので、DVDは後ろ側にあるクローゼットに全て格納しております。DVDをだすために、いちいちソファを少し動かさなくちゃいけないので、収納場所を寝室に移動させようか思案中です。
寝室はベッドとタンスにクローゼットしかないですから、場所はあるのです。
「ハルさん、何か飲みますか?」
「何がありますか?」
「ビールありますよ」
「ビールいただきま~す」
「つまみが欲しいところですね」
「トアさん料理できるのですか?」
冷蔵庫のドアをあけて中を確認していたら、ぴょこんとハルさんが横に来た。人様にみせる冷蔵庫じゃないですよ、恥ずかしい。
「魚肉ソーセージのケチャップ炒めができそうです」
「え~食べたことないですよ。そのままムシャムシャはありますけど」
「これが結構いけるのです。ビールがすすむ君、間違いなし!」
3本入りのパックをとりだし、全部使うことにしました(なんせ二人ぶんですから!)
斜めに適当な厚さに切ったらフライパンです。SABUROに来てから手間を惜しまずという精神を目の当たりにする毎日なので、ニンニクの備蓄を手始めにやってみました。フードプロセッサはないので、ローテクニックの包丁さばきでみじん切りをなんとかこなしてオリーブオイルに漬けています。これさえあれば炒め物もパスタも一気に素敵君に早変わりですから、ソーセージにも勿論使います。
「ニンニクっていい香りですよね。トアさんマメですね。ちゃんとニンニク仕込みしてる」
仕込みだなんて照れるじゃないですか。
「断然美味しくなるのですよ。腕がない人間ほど細かいことしたほうがいいのかもしれませんね」
「ミネさんなら腕に関係なく、細かいことを怠るな!って言いそうですね」
「ですね~」
ソーセージにちょっと焦げ目が付いたところで盛り付ける皿に移してしまいます。
「トアさん、ソーセージのガーリック炒めってことですか?」
「いえいえ、ケチャップです。ケチャップを炒めるというか焼くと美味しさが違うと料理番組で見て試したら、これが本当だったのです。空っぽになったフライパンにケチャップ入れます」
ジュウウワアアア
「いい音ですよね。これを木べらで炒めるというか火をいれると色が変わってくるんです。赤いケッチャプ色が少しオレンジというか茶色というか」
ハルさんは僕の横にくっついてフライパンの中身をじっくり検分中です。結構料理に興味があるのか、厨房でも味見に必ず参加して首を傾げたり、眉間に皺をよせたりしながら真剣に考える顔はなかなか格好いい。
「あ、ほんとだ!変わりましたね」
「あとはソーセージを戻して絡めればできあがり~」
「いい匂いですね、これ絶対美味しいですよ!」
「温かいうちに食べましょう!」
ソファに並んで座って缶ビールで乾杯です。ソーセージを勢いよく食べたハルさん、満面の笑み。よかった、お気に召したらしい。
「これ簡単なのに、美味しいですね!次回から魚肉ソーセージを買うことにします」
「ソースで試したらイマイチでした。ケチャップが一番合うみたいです」
ハルさんと中休みみたいなとりとめない話をしながらビールを飲んでソーセージを食べた。ハルさんは僕よりずっと若いのに、それほど子供に思えないのは色々あったからなのでしょうね。
ポツポツと話してくれることが少しずつ増えて、前よりずっとハルさん情報が増えました。それと比例してやっぱりハルさんは皆に可愛がられて笑っていてほしいと強く思います。
ビールが2本空になった頃ハルさんは何となく言いづらそうに僕に聞いたのです。
「お兄さんと仲はいいのですか?」
「兄ですか?10歳違うもので。物心がついたころはとても大人に見えました。親って大人と思う前に「親」じゃないですか。なんか兄は「お兄さん」と言う前に大人でしたね。だからずっと距離があって、差が全然縮まらなくって。思春期の頃兄はもう社会人ですし、よけい自分の子供っぽさが鼻についてイライラしましたね。
子供は子供なのに、なんであんなに背伸びするんでしょうか」
「へえ」
「兄が35歳で結婚して、翌年男の子ができました。26歳離れた甥っこです。このこが可愛くてね、僕にもよくなついてくれています。遊びにいくとタックルされますがね、やや年齢的にきつくなってきましたよ」
「トアさん、そんな顔して~、デレデレ叔父さん顔ですよ」
冷蔵庫におかわりのビールをとりにいったついでに、枝豆を皿にもった。冷凍の枝豆は冷蔵庫に保存と決めています。解凍になって常に食べごろ保存状態。
「わ、枝豆だ」
「ソーセージ無くなりましたからね。その皿を殻いれにしちゃいましょう」
ハルさんはコクンとビールを飲んだあと、ちょっとしょんぼりして言いました。
「僕は甥っ子に逢える可能性がありますけど、弟はないってことです」
「ハルさん、僕だって甥っ子は無理じゃないかと……」
「いえいえ、まだまだチャンスありますって!エンタメ女子が絶対いますよ!」
「……ありがとうございます」
エンタメ女子じゃなくてもいいですよ。僕を好きになってくれるなら(はずかしい!)
「兄が言うわけです。階段はちゃんと手すりをもちなさいとか、危ないから車道側を歩かないで、とか。それって僕も言われてきたことで、勿論中学生や高校生になったら言われることは変わりましたけど。
親子のやりとりを見て初めて気が付きました。僕のことを想って、心配して言ってくれた沢山の言葉。
僕はそれを「子ども扱いされた」とすべてをそう受け止めたわけです。
自分の浅はかさにグワ~~ンとなりましたね。兄に謝りました。兄は笑って「そんなことはいいさ」ってあっさり言ってくれました。今は色々すっきりして良好な関係です。
ただ、翔、あ、甥の名前ですが、僕の名前をなかなか言えなくて「とっちゃん」って小さい頃言ってまして、それが今も続いています。とっちゃんって30超えて言われるとオッサン言われている気がしますよ。
困ったものです」
ハルさんは笑ってくれた。少し気持ちあがってくれたかな?
「僕の弟は4歳下です。中学生っていう微妙な時期に自分の兄がゲイだって知ることになったせいか、僕達の間には距離ができちゃいました。仲のいい兄弟だったんですけどね」
「う~~ん。何と言っていいやらですが、たぶん最初はびっくりして固まったのだと思います。そして理解できないことを悩んだかもしれませんね」
「理解?」
「やはりですよ。自分と違う事や自分が絶対できないと思うことを理解はできません。理さんと飯塚さんを見て気持ちが悪いとか全然ないです。勿論ハルさんもね。でも僕がミネさんやハルさんに対して恋ができるかと言われると、やっぱりそれは無いわけです。たぶん理解できないってことですよ。
ただ家族となれば、必死に理解しようと考えるのかなって。でも無理で……そのうまくいかない気持ちが距離になって現れるのかもしれません。
仲がいい兄弟だったのでしょう?理解はできなくていいんだよって言ってあげたらどうでしょうか。ハルさんがお兄さんなんだし」
「そうかな」
「兄弟ですからね。言葉はちゃんと伝わります」
ええっと……こんなときは何を観ればいいかな。僕はソファから立ち上がって全開にならない扉に体をねじ込み、目当てのDVDを取り出した。
「ハルさん、ぴったりの映画を観ましょう。言葉があればきちんと伝わる、たとえ言葉がなくても通じている。それが実感できる物語ですよ」
「タイトルはなんですか?トアさんのおすすめに間違いがないですからね」
ハルさんはソファの上で膝をかかえて背もたれに深く沈んだ。どうやらこの姿勢がハルさんの鑑賞スタイルらしい。DVDをセットして電気を消す。音響と真っ暗で映画館気分です。
心優しい兄と、兄が大好きな弟と家族の物語。『ギルバート・グレイブ』のタイトルが画面にクレジットされた。
僕達は黙って映画を見る。ハルさんの心になにか一つコトリと落ちてくれればいい。僕はそう願って画面を静かに見続けた。
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