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july.3.2016 シネマレストラン 第4話「愛さずにはいられない」
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◇◆◇ 金曜日
「先輩これどうぞ。今日は営業会議らしいじゃないですか。外に出ている暇はないでしょう?」
ちゃんとマチがついた小ぶりのトートを渡す。中身は栄養バランスと彩りに気を配ってつくったサンドイッチ。彩りが綺麗なら栄養バランスはOKじゃないの?という突っ込みがどこかから入りそう。俺がいいたいのはそれ位気合を入れていますよ!ってことです。
「うわ!佐々木、気が利くね!ありがとう。」
嬉しそうな笑顔を俺に向けているのは4つ上の先輩で、所属は営業部。将来を期待されバリバリ働いている姿は俺の憧れだ。
俺が先輩にお近づきになれた切っ掛けは大麦雑炊。「朝あったかいものを食べたいけど、もうインスタントポタージュは飽きたのよね。」そんな会話をしながら歩いている先輩とすれ違った。この情報を無駄にはするまい!俺は意を決して旅費交通費の訂正箇所のチェックをいれた書類を先輩にバックした。業務連絡の顔をした付箋を貼り付けて。
そこにメモしたURLは大麦雑炊(フリーズドライ)の通販サイトで、お湯を注げば待たずに雑炊が食べられる。3分またずともアツアツが食べられるから生活能力のない先輩でもクリアできるだろうとの配慮。
(お湯ぐらいは沸かせるだろう。最悪マグカップに水をいれてレンジに入れればお湯はできる。)
先輩の生活能力に問題があるのは料理面。まるで才能がないらしい。掃除と洗濯は人並みらしいが致命的に料理ができず、結婚なんて絶対無理だなと営業部内でからかわれているらしい。
どのくらい酷いかって?高機能電子レンジにいろいろついているモード。材料を入れてボタンをおせば電子レンジがやってくれるっていうアレだ。煮物となれば材料を適当な大きさに切り、煮汁とともにレンジにいれてスイッチオン。これが普通・・・しかし先輩はカボチャを丸ごとレンジにつっこんで煮物の命令をくだした。で、結局レンジがしたのはカボチャをまるごと柔らかくしましたよ!という料理でもなんでもない代物を作り上げた。
これを飲み会で披露したものだから、嫁の貰い手がないだろうと部長が太鼓判を押した。結婚して辞められるくらいなら一生料理下手でいてくれというありがたい要望を添えられて。
とりたてて秀でたところが何もなく、総務でコツコツとルーティンワークをこなす俺がバリバリの先輩に勝っているのは「料理」のみ!
俺のつけ込めるのはここしかない。
大麦雑炊を足掛かりに、少しずつ先輩の食生活に食い込んでいった。いろいろな商品を探しては紹介する。おいしい弁当屋のリサーチやパン屋情報、最近は俺の手作り常備菜を渡すこともクリアした。会議がある日はこうしてお弁当を作るまではこぎつけた。
だが・・・あくまでも俺のポジションは給食当番。
「サンドイッチなので仕事しながらでも食べられますから。」
「ほんと、いつもありがとう。助かる~。」
この笑顔をもらって抵抗しろと?できるはずがない。格好よくて綺麗、明るくてサバサバしている。料理ができない?そんなの問題ない、だってそれ俺の役目だし。むふふ
悦に入って自分のデスクに戻れば周囲の呆れ顔が出迎える。
「ご苦労だね。」
「出来た弟君だわ。」
「ワンコね、ワンコ。しっぽブンブン振ってる。耳はペタン型ね、ピンとはしていない。」
俺の恋愛感情はダダ漏れなはずなのに、周囲はみな「憧れ」「懐いている」というもので面白がるばかりだ。あまりに釣り合わないと想像したり追及する気にならないのかもしれない。一人で遊べなくて近所のおねえちゃんにジャレついている子供。もしくは盲目的に飼い主に従う忠犬君扱い。(その忠犬歴はまもなく2年になろうとしている。)
他人がどう思っても関係ない。
先輩が気付いてくれればそれでいい。
・・・いや、それがたぶん一番問題なんだけど。
◇◆◇ 土曜日
歩き疲れてしまって入った店。初めてだったけど入りやすかったし料理がとても美味しかった。口に合うというのかな、「どうですか?おいしいでしょう?不味いはずがないのです。だって使っている食材がですね・・・。」という押しの強さがない味っていうのかな?わかりにくいか。とにかく優しい味で癒された。
土踏まずのあたりのジンジンが少し弱まった気がする。
明日は先輩の誕生日だから、何かプレゼントをと思って街に出たまではよかったが、その後が続かない。先輩の食生活面だけを深く深くリサーチ&フォローした結果、趣味が何で何が好きなのか、さっぱりわかっていないことが判明した。仕事で使うボールペン?付箋?ファイル?そんな文房具を欲しいと思うだろうか?思わないだろう。かわいいキャラクター?ありえない。日ごろのお礼だと飲みに連れて行ってくれた時は延々生ビールを飲んでいる。誕生日にビールを1箱・・・いただけない。
ん?あれ?ああ~あの人!映画の人だ。そういわれてみれば、この店はセットに使われている場所だ。へえ~偶然だけど、得した気分。そして嫌な事を思い出してしまった。
番組で紹介された映画の一本が女性同士の恋愛もの?らしく、その話題になった営業部で先輩が言ったそうだ。
「私は旦那より嫁がほしいです。」
営業部は話題が話題だっただけに軽いカミングアウトなのかと色めきだったらしい。しかし真偽のほどを尋ねる勇気を持つ人はおらず(部長も)いまだに先輩の嫁発言はグレーゾーンに留まっている。
料理ができる男子より女子のほうが確率は高いだろう、それに先輩は格好いいから・・・可能性がないとも言い切れない。男も女もライバルとなると、俺の立場は弱すぎる。
はぁぁぁ
ひときわ大きなため息がこぼれてしまった。
ニョキっと腕が伸びてきてほぼ空になりかけていたカップにアツアツのコーヒーが注がれた。やわらかい湯気がいい香りを運んでくれる。
「あ。ありがとうございます。」
「いいえ、どうぞごゆっくり。」
にっこり笑った眼鏡の奥で優しい目が俺を見ていた。なんかこの人安心するな、なんて考えてしまったせいかうっかり口を滑らせた。
「格好いいのに、カッコ悪い恋愛映画ありませんか?」
聞いてしまってから気づまりになって視線を外してしまう。あまりに唐突だし前置きも何もあったもんじゃない。恥ずかしくて顔が赤くなる。
「う~~ん、そうですね。ありますよ「愛さずにいられない」というフランス映画です。」
「・・・フランス映画・・・ですか。」
「ええ。古い映画ですけどね、とはいっても80年代のものだからカラーだし。それほどギャップは感じないと思います。」
「格好いいのに、カッコ悪い。」
「ええ、でも素敵です。あの口説きで落ちない女性はいないだろうという無敵のシーンがあります。パリの街をキスしながら歩いたりするんですよ。絵になりますよね、フランスの人は。」
な、なんだって!無敵のシーンだって??
いきなり興味がどんと沸いた。それを是非見てみたい・・・そして応用したい。明日の誕生日の参考にしたい!
「ありがとうございます!見てみます!」
「あ、レンタe-zoにしか置いてないと思いますよ。」
「ご丁寧にありがとうございます!」
熱いコーヒーをガブガブ飲んで俺は店を後にした。その無敵シーンってやつを確認するために。
◇◆◇ 土曜の夜
無敵シーン・・・は確かに無敵なシーンだった。
そもそもこのカップルは不釣り合いな二人だ。女性はソルボンヌ大学に通う才女。清潔感あふれた頭がよさそうだけど可愛くて綺麗。
彼女を見初めた男は・・・30歳を過ぎたプータロー。仕事もせずブラブラしてヤクの売人をしている弟にたかって生活している。しかしこの男は身の程知らずで彼女にアタックする。さすが愛の民族フランス人。
無敵シーンは彼女にプレゼントをしたいが金がない男があみだした必殺技だった。
彼女の部屋に上がり込んでベランダに誘う男。彼女をともなってベランダから外をみれば、そこには光り輝くエッフェル塔。これだけで十分絵になっている・・・札幌のテレビ塔とは格が違いすぎじゃないか。
「今から君のために魔法をかける。アン・・・ドゥ・・トゥワ。」そして指をパチン。
ふっとエッフェル塔の光がおちて闇夜のなかに塔のシルエットが浮かぶ・・・ウギャア!!
チンピラのくせにやることのキザっぷりに脱力した。必殺技のおかげで二人はめでたしめでたし。
格好よすぎじゃないかと思っていたら、結局彼女に愛想をつかされる。だってあまりに違いすぎるんだ、考え方も生活も。
しかし男はめげない「また最初からやりなおしさ。」
カッコ悪い。
カッコ悪いけど・・・なんだか俺は気持ちが落ち着いた。こんな必殺技は俺にはできない。テレビ塔の電気が落ちる時間に先輩と並んでバルコニーに立てるシチュエーションまでもっていかれる自信がゼロ。
でも何かアクションを起こさないと給食当番のままで終わる・・・それはいやだ。
結果ダメでも諦める以外にも答えがあったんだ。「最初からやりなおす。」っていう選択肢が。
パソコンを立ち上げて、調べてみる。
思いついたものが自分の気持ちにぴったりだったので迷わずこれに決めた。
◇◆◇ 日曜日
テーブルの上に置いたスマホを前に正座している俺。傍から見ればかなりイタい姿かもしれない。
でもなんとなく、居ずまいを正していればいい結果がきそうな気がしての正座。
足がしびれ始めたその時、スマホがブーブー唸った。
『先輩』の文字が映っているディスプレイを見ながら、この登録名もどうにかしたいなと考える。
深呼吸をひとつ。
指をスライド。
「おはようございます。」
『佐々木・・・おはよう。』
歯切れが悪い。俺の行動は裏目にでてしまったのかも。
『ええとね、食べ物じゃないものが届いたんだけど。佐々木さんって人から。』
「はい、手配したの俺です。」
『まさかね、って花言葉調べちゃったんだけど・・・。』
「はい、そのまんまです。」
『・・・。』
「お誕生日おめでとうございます」のメッセージを添えて俺が送り付けたのは真っ赤なガーベラの花束。花言葉は「燃える神秘の愛、前向き、チャレンジ」
まさしく俺の心情そのまま。
『昨日友達と飲んでね、その席で包容力の話になって。年上の男が正しい道を教えてやるみたいな説教をしたり、ベタに甘やかすとかね、これは包容力と違うよねって。』
「はあ・・・。」
『私が友達に言ったのは・・・自分にないものを補ってくれるのが包容力じゃないかって。』
「えっ!先輩、それって!」
『こんなこと電話で話してもしょうがないわね。佐々木昼どこかで食べようか。』
「はい!先輩と行きたい店があるんで、そこに行きましょう。」
『じゃあ、11:00に大丸藤井でいいかな。万年筆のインク買わなくちゃいけないから。』
「わかりました!」
通話を終えた俺はワナワナ震えた。はっきりした言葉をもらったわけじゃない。でも否定はされなかった!拒絶もなかった!
俺だって花言葉に気持ちを押し付けただけで、ちゃんと先輩に言っていない。
ちゃんと言おう。
「好きです。」って言おう!
上がりまくったテンションのままクローゼットを漁る。
お店にいったら、あの優しい笑顔の人にお礼を言おう。
「素敵な映画をありがとうございました」って!
Fin
ああ~~あ。
特番のせいで1週放映がずれこんだ「シネマレストラン」
ウキウキしながら楽しみに帰ってきた。ちゃんと録画になっているかなって少し心配もしながら。
そして今回はトアさんのおかげで一歩を踏み出すワンコ君のエピソード・・・。
私ったらバカみたい。
毎週ラーメン食べているのか、この人は・・・とか。
実は俺に会いたくてラーメン食べにきたのか、この人は・・・とか
そんな風に思われたらどうしようって考えてしまった私は、スーパーにいく時間をずらした。そしてラーメン屋さんには行かなかった!
何も始まっていないのに、変な気をまわしてしまった。私ってこんなに臆病だったかな・・・。
トアさんの優しい笑顔を思い出す。
もっといろんな話をしてみたい、いろいろなことを聞いてみたい。
「kissingジェシカ」の感想だってまだ言っていないし。
明日は絶対ラーメン屋に行こう!
トアさんと逢えるといいな・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「愛さずにはいられない」は本当に素敵な映画でして、エッフェル塔のシーンを映画館で見たときはズキューン!!!となりました。プータローでもいいよ、イッポ!君に惚れちゃうよってドキドキしたものです(若かったww イッポはプータローさんの役前です。まだ覚えているw)
残念ながらDVDにはなっていないのでレンタe-zoはどうするのかなって考えちゃいましたが、きっと社長さんがどうにかすると思います(適当~)
このエピソードは西山の援護射撃です。
一応援護にはなったみたいですね。
問題はトアが月曜日にラーメン屋にいくかって事なんだけど。
どうかな~?
ああ!それと!
カボチャの話です。
そんなことする人なんていないでしょう?あまりにも現実離れしているわ!と思った方。手を挙げてくださいww
あれは私の友人のエピソードです。おまけに彼女の「鉄板ネタ」として接待の席で披露されておりますww
本当にいるんですよ~~~。
(ツイッターでつぶやいたのでご存知の方は、ああ、ここで出したのか!って思ったはずww)
せい
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