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jan.8.2017 ずっと・・・
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ふうう~三連休が終わったけど、SABUROの今週はまだ始まったばかり。今日は成人式だったし、お祝いの予約が入っていたので定休日はなかった。でも大丈夫、もう少し踏ん張れば次の定休日がくるし、大連休が待ち構えている!
恥ずかしい自分の姿が映りこまないようにテレビをつけた。とりあえずニュースにでもしておくか。
ワインを持ってきてくれた衛が横に座る。
お疲れ~と乾杯してワインをゴクリ。ふう~今日も終わったお疲れさん。
「トアの手袋見たか?」
珍しく衛がそんなことを言う。みましたよ、真っ赤な革手袋。
「うん、見た見た。それが意外と似合っているんだよね。トアって普段からさし色がピリっとしていたけど、赤は初めてじゃない?」
「赤は初披露だな、確かに。」
シーグリーン、青、綺麗なグレー。モノトーンの組み合わせにチラっと見せる色が効いているトアのコーディネイト。「全部バナリパですから、コーディネイトが楽ちんです。」とはトアの答え。でも同じブランドだってデザインや色目は色々あるから、それを形にするのはやっぱりセンスが必要だよね。
「なんとあの手袋は坂口さんからのプレゼントなんだってさ。」
「へえ、そうだったのか。」
「トアの革の肩掛けバッグあるじゃん。あれサイドに赤のラインがパイピングされているだろ?」
「・・・そうだったか?」
「俺も正明に言われて気がついたんだけどね。どうやらその赤と合わせたチョイスらしい、あの手袋。」
「よく見てるな、女性ならでは視点かもしれない。」
「俺としてはトアのことをよく見ているって解釈なんだけど。」
衛はクスリと笑った。「そういうことにしておくか。」そんな顔。
「それで更なる正明情報聞きたい?」
「聞きたくないって言っても言うんだろ?」
「なんだよ・・・それ。」
「あはは、聞きたい、聞きたい。」
グラスにワインが注がれたあと、手をギュっと握られたら臍を曲げることができないじゃないか。ズルいな~衛は。
「なんとトアがプレゼントしたのは赤いマフラーなんだってさ。」
「・・・赤つながりか。」
「つながりっていうか繋がりだけど、打ち合わせもしていないのにすごくない?」
「そう言われたら、そうだな。」
「だからさりげなく二人は赤でお揃いなんだよ。俺それ正明に聞いたとき照れた、何故か。」
俺と衛のお揃いとかは・・・ありえない。そんなこっぱずかしいことは無理だ。お揃いなら正明から貰ったグラスや万年筆がある。なにも世間様に「お揃いです!」を主張しなくてもいいって思う。
でも意図していないのにそうなった「お揃い」はいいかもね。ひゅーひゅートア。
テレビのニュースは毎年恒例の「暴れる成人、成人式混乱」のVTRになっていた。毎年のことながらウンザリする。なんでこうも行儀の悪い人間がいるのか意味がわからない。
横をみると眉間に皺を寄せた衛がいた。
「チャンネル変えよう。なんか毎年これ映るだろ?ニュースになるから目立ってやろうっと思うのかもしれないね。
このVTRを30歳超えたときに見て「俺の武勇伝」とか言えるんだろうか。ただのおだった若造の姿ににしか見えないのにさ。」
衛はワインをコクリと飲んだあと自分のグラスを満たした。テレビの画面は何かのドキュメンタリーに切り替わる。
「ほんの一部の人間のせいで「最近の若者は」って言われるのは可哀想な気もする。今晩店でお祝いしてた何組かは微笑ましかったじゃないか。両親にじいさんばあさんと一緒で。最近のじいさん、ばあさんは若いのに驚いたよ。」
「そうだったね。お酒でかんぱ~いって。そんな事が嬉しいっていう顔がよかった。
成人式といえば、俺は最近の着物が苦手かな。」
「最近の着物?」
「柄とか、あとメイクと髪。頭にバラつけたりレースがふりふりしてたりするだろ?着物って伝統的な文化なんだからさ、ビシっと王道を行ってほしいわけ。それでいうと姉ちゃんの晴れ着姿は綺麗だったよ。身内で褒めるのもなんだけどさ。」
淡いピンクに模様が入っていた着物。黒地に晴れやかな模様が入っていた帯。もちろん髪にバラなんてついていなかった。
「紗江さんの晴れ着か。それは綺麗だったろうな。」
「ヨシ兄が時々その写真ひっぱりだして眺めるらしい。」
「へえ~。」
「それでね。紗江は変わらず綺麗だな~今も綺麗だな~。ここに乗り込んできてよかったな。頑張ったな俺、もっと頑張れるな。って写真見ながら考えるんだってさ。聞いているほうが恥ずかしいよ。」
「いい話じゃないか。」
衛は真面目な顔でそう言った。まあね・・・肉親が綺麗だって聞かされても素直にそうだねとは言いにくいというか・・ずっと見てきた顔が美人なのかそうじゃないのか、よくわからなかったりする。
「姉ちゃんと一緒にいる毎日を当たり前に思ってしまうとダメなんだって。俺も言われたよ。衛と一緒にいるのが当たり前かもしれんが当たり前じゃないんだぞって。二人の気持ちがちゃんとあるから成立しているんだって。それを忘れちゃ駄目って。
そう言われると、そうかもな~って。」
「じゃあ、二人の写真を撮りに写真屋に行くか?」
何言い出すの!そんなこっぱずかしいことできるかっての!
「嫌だ!絶対嫌だ!なに?何の理由で写真?男同士で・・・うわ~~絶対無理。いたたまれない、写真屋から逃亡する、絶対する!」
衛は噴き出しそうになりながら口元を手で押さえた。ゲホゲホ苦しくなればいい!恥ずかしいことをいったバツだ!
落ち着いた衛がまたもや俺の手を握った。
・・・なんだよ。
「兄さんの写真みたいな形にあるものじゃなくていいんだ。俺にとって確かなことは理との毎日だから。
こうやって取り留めのない話、時に真剣な話をする。思い出す言葉には俺達が沢山詰まっている。
もう理と一緒にいないことなんか考えられないけど当たり前だなんて思っていない。特別なことだよ、そして嬉しいことだ。
毎日が大事、そして楽しい。」
握られた手は温かい。
ギュウと握り返す。
『明けない夜はない。』そんな言葉がある。俺は今まで、どんなに苦しいことがあってもきっと乗り越えられるーそういう意味だと思っていた。
でも違う解釈もできるんじゃないか?
おはようを交わす、そしておやすみを言う。一日の疲れとともに眠りに落ちれば、その先には朝が来る。
眠った時と同じように衛が横にいて「おはよう」から一日が始まる。
昨日と今日、そして明日。
繰り返される毎日は二人が一緒にいるという証になる。
明けない夜はない。まぶしい朝とともに、衛との新しい一日が始まる。それが積み重なっていく幸せは俺達にとって確かなものだ。たとえ形になっていないとしても・・・確かなものだ。
「衛と会話がなくなったら・・・ずっと夜のままで朝がこないかもしれない。」
口をついてでた言葉は漠然としていて衛には伝わらないだろう。でもいい、言葉にすることで俺はこの毎日を絶対繰り返してみせると思えるから。
「そんなことにはならないさ。無理やり口をこじ開けてやる。」
「無理やりこじ開けられるなら・・・キスのほうがいいけどね。」
ニヤリと微笑む衛。
伸びてくる腕。
こうして俺達の一日は終わり、また朝が来る。
「ずっと」・・・は在りえないって思っていた。
でも衛となら・・・「ずっと」が存在するんじゃないか。
最近俺は、そう考えるようになったよ、衛。
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