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chapter3 逃げていく週末メシ <7月>
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「ふう・・・。」
たった今切れた携帯をポケットにつっこむと、知らずにため息がこぼれた。悪い子じゃないけど、畳み掛け作戦に関してはなかなかに押しが強い。
あれよあれよ・・・と展開されていて、断るタイミングを逸した俺は腹を括るしかなさそうだ。残念ながら、逃げは打てそうにない。
「あ~あ。」
廊下の壁にもたれかかったが、グズグズもしていられない。さっさと事務作業を片付けなくては待ち合わせに間に合わなくなる。
「なんだ、憂鬱そうだな。」
そこへ飯塚が廊下の向こうから歩いてくる。どうして俺はコイツみたいにバッサリと言いきれないのだろう。その極意をわけてほしい・・・。
「策に嵌められたような気がしてさ。」
それだけでわかったのかニヤリとする男前。
「飯塚は経費精算?」
「そ、不備があるとかで総務に呼ばれて。しかしヒマだな、あそこは。不備っていうからなんか漏れてたかと思ったら領収が一枚はがれてますよ~って。そんぐらい糊で貼れっつうの。」
飯塚君、わかっていないね~。それは君を総務に呼ぶための口実でしかないのだよ。君の男前の顔を拝んで力にするのだよ。(給湯室で盛り上がる彼女達の会話からの情報だから間違いない)
「いいじゃないか。俺なんかそんなお呼びかかりませんよ。」
真面目な顔をした飯塚は何を言ってるんだと言わんばかりの口調で言った。
「お前はつまらないミスはしないだろう。」
ええ、ええ仕事においてはね。領収の糊だってビタっと塗りこんで貼り付けますよ。
でも・・・どうにも昔から女性の押しには対抗できない。たぶん姉ちゃんのせいだ、絶対だ。
「もうすぐ5:00になるぞ。さくさく片付けないと。」
時計をみると確かにそんな時間になってしまっている。いっそうのこと急な残業でも入ってくれないだろうか。
「素晴らしい手料理のお返しがしたい気分なんだ。貯めてる仕事あったら俺がかわりにやってやるから遠慮なく言えよ。」
オフィスのドアに手をのばしていた飯塚は振り返った。
「あのなあ・・・。そんな礼なんぞいらないよ、俺が好きでやってることなんだし。つきあうのか?」
「え?何を?」
「里崎さん。」
「あ、ううう。」
「まあ、武本のそのノリだと何時ものように、3ケ月未満ってところだな。」
「もっと短くてもいいかも・・・しれない。」
「彼女もかわいそうに。」
「俺のほうがかわいそうだ!」
飯塚は完全に振り返り腕を組みながら憎たらしい笑顔を浮かべて言った。
「つきあってる間は里崎さんにメシを食わせてもらえよ。デートやいつ呼び出しがかかるかわからん状況だと俺の手料理が腐るからな。旨いもん食わせてくれるといいな。」
はっはっはと黄門さまみたいに高笑いしながらヤツはオフィスに入っていった。
可愛い子だ。見た目はかなりいいし悪い子じゃないと思う。でも・・・それだけだったりする。
あああ、俺の週末メシが・・・。
結局、急な残業はやってきてくれなかったから、里崎さんに向かい合うハメになった。
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