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12年・・・重ねた時間の目指す先 5
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「わからんが、漠然とした不安。そして何やってるんだ俺っていう虚無感。これがつねに燻っていて気持ちが上向かない。
なんだろうな、歳なのかな。」
歳であることは間違いない。でもそれだけではない。いっそうのこと、全てを指摘してやるほうがギイの為になるのかもしれない。俺だって心の底に隠している物をぶちまける頃合いなのかもしれない。
それで望む結果にならなかったとしても、それはそれだと割り切れる。何故かそう思えた。
今朝、ヨーグルトと卵ぐらいは買おうと決めた。その後、口にした料理は身体に沁みた。
それは俺が変わろうとしている、変わりたいと願う本心のような気がしたからだ。このままズルズルと時間だけをやり過ごす穏便な方法だってある。現にそうやって時間を重ねてきたのだ。
それでも、やっぱり言ってしまおう。
ワインは残り少ない。あと一杯ずつ飲めば空になるから残り時間は少ない。
結果が伴わなければ、ここから一人で帰ればいいだけじゃないか。
「ギイ。うすうす気づいているはずだぞ、言ってもいいんだな。」
「・・・なにをだ。」
「気持ちが落ちて浮き上がってこないのは、自分が一人だと知ってしまったからだ。
俺もお前も「寂しい」に心が弱っている、心が歳をとった・・・だろ?」
ギイがワインを飲み下すコクリという音が聞こえたような気がした。俺の言葉がギイの胸の中に吸い込まれた音。ゆっくりグラスをテーブルに置き口元を覆う。視線はテーブルに向けられたままで俺を見ていない。
だが言葉をゆっくりと咀嚼しているのがわかる。
節操なしかもしれないが、頭の悪い男じゃない。
残りのワインをそれぞれのグラスに注ぎ足し、ボトルを空けた。
「沢山の男とたっぷりの時間を過ごしてきた。そこに沢山の感情がまぎれていたが、お前は見て視ない振りをした。伸ばされる手だけを見て、相手の心を覗くことをしなかった。
それは一度手にしたあとに消えうせたら耐えられないと知っていたからだ。
お前は自信に溢れているが、裏腹に臆病で小心者だったりする。
自分を守るために必要以上に人と関わらずに身体だけを重ねた結果だよ。
満たされてないんだ、俺達は。身体の話じゃない、心が寂しがっている。違うか?」
さらに一口ワインを飲み下す。ようやく視線を俺にむけたギイは笑っていた。
「時にお前は辛辣で手厳しい。俺にそれだけ冷たくできる男は他にいないよ。」
「わかっていないな。俺は優しくしているんだ。」
「わかっているよ、俺にそこまで言ってくれるのはお前しかいない。」
わかっていればいい。さてどうしたものか。弱ったところにつけ込むか?今日はとりあえず見合わせるか?
いや駄目だ。俺は変わると決めたのだから、今日はちゃんとやり遂げよう。
そうじゃないとこれからも意味のない日々を送ることになる。
「誰も傍にいないから、そうなるんだよ。引きあげてくれる誰かがギイにはいない。
きっとキイちゃんだって沢山の悩みや不安、問題を抱えて生きているはずだ。店に顔をださなくなって1年近くがたつけど、翳りはなくなってキラキラしている。きっと彼の言う出逢いがそうさせたんだ。
王子様達がキイちゃんに前をみて進む術を教えて見守っているんだろう。
ギイがずっと一人で時間を過ごす生活をしていたら、今回みたいなことにはならなかったはずだ。
まがりなりに、いつも誰かが傍にいた。
でも心に寄り添ってくれる男はいなかったことに気が付いて孤独を実感した。
ちゃんと誰かを好きになれ。一緒にいたいと思える男を探すんだ。」
「今更真面目な恋愛ができるのか?俺に。」
「恋愛しようとして恋愛するバカがいるか。自分が望む相手を見つけろ。」
「偉そうにな~お前だって同じだろう。それとも内緒の恋人説、あれマジなのかな?」
ふう・・・・。深呼吸を一つ、そして残ったワインを一気に飲み干した。財布から1万円札をとりだしグラスの下に置く。
「おい、ちょっとまってくれよ。この残りのんでしまうから。」
「いや、ゆっくりしておけ。儀。」
『儀』と呼ばれたことに面食らったのか、びっくりした顔がこっちを見ている。俺はその顔をボンヤリ見ながら思った。
お前との仲もこれまでか・・・。
「俺は最初に逢ったあの日から、胸の中に儀をずっと忍ばせてきた。俺じゃない男と寝る姿を見守りながらずっと傍にいた。それを続けるとな「寂しい」がどんどん降り積もる。
そろそろそれにも疲れてきた。
もし儀が俺を選んでくれたら、約束するよ。
俺が儀を捨てることは絶対しない。ただし浮気は別だ、誰かを抱いた後だと知ってその男と寝られるほど、俺の神経は図太くはない。
だから俺を選ぶってことは腹を括って覚悟をするってことだ。そんな儀になってくれたなら俺はずっと儀の傍にいるだろう、離れることはない。」
そこまで言ってしまってからやはり後悔した。
言ってしまったことは取り消せないし、これでよかったと思い直す。
キイちゃんの姿とこの旨い料理に背中をおされて溜め込んだものを吐き出した。
それでいいじゃないか。
後悔以上に俺はスッキリしていた。
「悪かったな、俺は帰るよ。足りなかった分は出しておいてくれ。」
「ちょっと・・・待てよ。」
「待たない・・・わかるだろ。俺は強くないんだよ。言ってしまってスッキリしたけど後悔だってある。
儀と一緒にいるのは寂しいが沢山だったが、居なくなると思ったら、寂しいより「悲しい。」が大きい。
さよなら、儀。」
儀の顔を見ることはできなかった。自分で言った「悲しい」の単語は思った以上に心を抉った。
ゆっくり歩いて出口に向かう。
忙しそうなキイちゃんが手を振って笑ってくれた。手を振りながら、今日ここにきてよかったと思えた。
自分は変化を望んでいたからこそ、言えたんだ。
店をでて歩き出す。さすがに帰りは地下鉄に乗ろう。2駅分歩くには満腹すぎるし、気力がない。
沢山の人間であふれる地下を思うと、それも嫌になった。一人であることをより実感しそうで、怖い。
タクシーに乗り運転手に行き先を告げる。
車の振動に身を任せ、もうすこし遠い場所に家があったらよかったのにな・・・。そんなことを考えた。
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