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may.4.2016 春の雨と桜・・・キュウと鳴る心臓
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今日は雨。
「全道的に雨でしょう。」というアナウンサーの声と高い降水確率がどんよりした景色を裏付けています。
「今日の雨で桜散っちゃいますね。」
「だ~な。昨日見ておいてよかったな。」
昨日の中休み、ミネさんが「大通り公園の桜見に行かない?」そう誘ってくれました。もちろん大喜びでお花見に。途中パルコのスタバに寄って飲み物を確保。ミネさんはグランデサイズでブレンド。僕は甘いのが飲みたかったのでメロンのフラペチーノにしました。オレンジ色が綺麗だったし、季節の新商品は試したいですよね。
桜の見えるベンチを見つけて腰を降ろす。ミネさんが手にしている白いパッケージを見たらギブスを思い出した。(海外ドラマの主人公さんで、しぶいオジサン。職業は特別捜査官。)
「ギブスが買うサイズってベンティですかね。」
「どうかな。あれより大きい気がする。アビーのカフパウよりは小さいだろうけど。ハル、それ旨いの?」
若干眉間に皺をよせたミネさんがフラペチーノを指差した。
「メロン・・・な感じです。思っていたより本物感ありますよ。」
「あ~そう。俺果物系のウソんこ味、超苦手。」
「果汁1%しか入っていないオレンジジュースとかですか?」
「そそ、それ。それでいうと青森のストレートリンゴジュースは旨い。」
「ストレート?100%ってことですか?」
「濃縮還元っていうのは絞った果汁の水分を飛ばして濃縮するわけ。それを水で割って100%の状態にする。水分を飛ばす段階で香りが飛んでしまうので、香料を添加する。」
「なんでそんなことするのですか?」
「水分がないってことは腐りにくい。保存がきく。あと体積が圧縮されるわけだから全体量が小さくなるだろ?保管も輸送もコストダウンできる。対してストレートは絞ったままを商品にしているからより果物の味に近いってわけ。」
「は~成程です。」
「今度売り場でパッケージ確認したらいい。ほぼ濃縮還元しか売っていないけどね。」
食品関係のこと、色々知っていますね、ミネさん。僕は100%だと全部100%だと思っていました。同じ100%でも加工した100%と絞った100%があるとは。
「こんな話聞いて面白いか?」
ミネさんは僕の顔をみてそんなことを言いました。
「面白いですよ、知らない事が「知っている事」に変わるって楽しいじゃないですか。」
「そっか・・・。」
ミネさんはチラチラと花びらが舞っている様子を目を細めて見詰めていた。今日はとても温かくて気持ちがいい。ようやく春がきた、そう言える穏やかな午後です。
「俺ね、ハルから貰ったプレゼント、本気で嬉しかった。嬉しいに本気もウソん気もないだろうけど。料理に関するプレゼントって初めて貰ったから余計にね。」
「色々探してみたのですが、身に着けるものとか・・・でもしっくりこなくて。」
「飯塚がいつも真剣に包丁研いでいる気持ちがわかるよ。サトルにプレゼントされて・・・アイツ本当に嬉しかっただろうなって。包みをあけて本が出てきた時、うわ~~ってなった。」
「それならよかったです。」
ふわっと笑顔を浮かべているミネさんの視線があまりにも優しいので、僕の心臓がキュウウ~~となる。ミネさんの手を握りたい・・・どこかに触れたい。とっても強い欲求がこみ上げて来て、それを抑えこむために冷たいフラペチーノを思い切り吸い込む。でもフラペチーノって詰まってすんなり上がってきてくれない。
「どうした?なんでそんな顔してんの、ハル。」
どんな顔ですか?僕はわかりません、どんな表情なのか。少し赤い気がします。
「ハルは・・・いいこで可愛いな。」
ミネさんは肩をだくように僕に腕をまわした。そして髪の毛をつまんだりひっぱったり、クルクル巻き付けている。足を組んでベンチに座って僕の髪で遊んでいる。
やっぱり僕の心臓かキュウウっと鳴る。
僕が手を繋ぎたいって思ったのミネさんわかったのかな・・・。
それから僕達は飲み物がなくなるまで、ずっと黙って座っていました。桜の花びらを眺めながら。
「どうした?」
ミネさんの声でハッとする。昨日のお花見を思い出していた僕は心ここにあらずな状態だったようです。
「昨日のお花見を思い出していました。9日お天気がいいといいですね。」
「だ~~な。」
僕の目の前には新しいお茶碗がある。萩焼のお茶碗はとても柔らかくて温かい。土物で短時間で焼き上げる焼き物は使っていくうちに色がかわっていくそうだ。肌が少しずつ水分を吸収して変化していくらしい。長く大事に使って、変化した姿を楽しみたいなって思います。
「その茶碗気に入った?」
「はい、とっても優しい色です。淡くて柔らかい。」
「会場で見つけた時、ハルみたいだなって思ったのよ。」
「・・・僕みたいで・・・すか?」
「うん。ほわんとしてて柔らかくて優しい。土物特有の温かさもあるしね。ハルにぴったり。」
・・・どうしてそういうこと言うのですか。またミネさんの手をギュウってしたくなる。でもできないから心臓がキュウウってなる。
「厚揚げおいしく炊けてるな。」
「・・・ありがとうございます。」
「ハル。」
「・・・はい。」
ミネさんはやっぱり優しく笑っている。また僕の心臓がキュウキュウうるさい。
「どうしたの?そんな顔して。」
「どんな顔かなんて自分で見られません。」
「んん・・・そうだね、困ったような、俺になにか言いたそうな顔。」
思い切って言ってみようか、言葉にしてみようか。
「じゃあ、僕の髪わしゃわしゃしてください。」
ミネさんは少しだけ残っていた御飯を綺麗に食べ終えると箸を置いた。向かい側から僕の隣に腰を降ろすとほっぺたをムギュウっと摘まむ。
「そんなことならいつでも言えばいいのに。困っていないで。」
そしてふわりと髪を触ってくれた。
触ってもらっているのに、心臓はキュウキュウしっぱなしでちっとも落ち着いてくれない。そっと手を伸ばしてカーペットの上に乗っているミネさんのシャツの裾に人差し指で触れた。
手を繋げなくても、ちゃんと触れられなくても・・・シャツならいいよね。
ミネさんが立ち上がって「そろそろ準備をするか。」そう言うまで5分くらいだったと思う。
昨日と同じようにやっぱり僕達は黙ったまま、その時間を過ごした。
結局、心臓のキュウキュウは収まることなく、ずっと僕の中で鳴り続けていた。
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