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「ッ!」
「……あー……っ、て」
身体が誰かに包み込まれていて痛みなんて少しも感じない
すっぽりと俺の体を抱きしめている
この感触にどこか懐かしさを感じた
俺の好きだった居場所の一つにすごく似ている
でもそんなわけがないんだ
こんな都合のいい展開
もしかして頭でも打ってこれこそ幻覚なのかも
夢ならまだもう少し見ていたい……
だって本当にそっくりなんだ
──の腕の中に、そっくりなんだ
「祥……おい、祥? 頭打ったか……?」
「……」
「聞こえてんのか? おい!」
「……へ……?」
「祥、怪我してない?」
夢だったらなんて考えていた時
誰かが顔を覗き込んでくる
ましてや俺のこと祥なんて呼んじゃって
本当にそっくりだ
呼び方も少し低くてハスキーな声も何かも
顔も……そっくりだ……
「何見惚れてんの? しょーちゃん」
「ーーッ?!」
「っあ、いてっ!」
「うーっ……! い、痛い!」
「俺の方が痛いんだけど……」
目の前に居る本物の直輝に驚いて
目をパチパチとしていたら懐かしい呼び方で名前を呼ばれて体が飛び跳ねる
慌てて起き上がったせいで
直輝の顎に俺の頭が強打して二人して痛みに顔を歪めた
「祥相変わらずだな」
「な、なんで……」
「なに? 俺に会えて嬉しいんだ?」
「ち、が……っ!」
「違うの? 俺は嬉しいけど」
「……」
ニヤリと笑うその笑い方も
涼し気な目元も甘い笑顔も
意地悪な声も
何もかもあの日と変わらない直輝だ
本当に直輝が俺に笑いかけてるの?
グルグル頭の中が混乱してくる
だって、さっき直輝は俺のこと……
俺は直輝に嘘ついて騙して、それから
「祥?」
「──っ! さ、触んなっ!」
「ッ!」
「あ……」
「……。 ごめんごめん、触らないから」
ふわりと頬を撫でられて反射で動いた体は
直輝の手を払い除ける
パシン、と乾いた音が響き渡って
直輝の表情が一瞬曇ったのがわかった
「……ごめん。 俺のこと庇ってくれてありがとう」
「いいえ〜」
「……怪我してない?」
「んー平気」
「……。 じゃあ俺行くから、もし怪我してたら直ぐ病院行って。 お金は振り込む」
「……ふっ、予想以上に冷たいね?」
「……」
「俺が黙って向こう行ったから?」
「……」
「でも祥知ってたんだろ? 俺が知るより先にアメリカ行くこと」
「──ッ」
「聖夜から聞いたよ。 聖夜は馬鹿だからね、それが悪いことだって知らないからそのまんま聞いた」
「……そうなんだ。 でももう昔の事だろ」
「……昔のこと、ね」
「……」
「仕事中なんだろ? 行けよ」
「……言われなくても行くよ」
直輝から離れて荷物を箱に戻すと立ち上がる
直輝はそのまま地べたに座り込んだまま黙っていてこの沈黙が苦しい
ああ、なんで三年ぶりに会えたのにこんな態度しか取れないんだろう
お帰りとか、どうだった?とか
言いたいこと沢山ある
俺も話したいことが沢山ある
聞いて欲しいことが沢山あって
この三年間本当に色んなことがあったんだよって
うん、うん、って優しく頷いて聞いてくれる直輝の笑顔が見たい
でもここじゃあ
俺と直輝が話しているところを誰かに見られたらダメなんだよ……
階段を上りきって後ろを振り返ってみても
直輝の姿はもうなかった
そりゃそうだ
俺のこと守って下敷きになったっていうのに俺のさっきの態度はあんまりにも酷すぎる
直輝があんまりにも昔と変わらないままだからズキズキ心臓が痛んで苦しい
直輝に抱きしめられた感触がまだ体に残っていて息が止まるんじゃないかってぐらい緊張して震える
この三年間あの腕の中に戻りたいって何度思ったんだろう
数え切れない程願った
何度もやり直したいって言いかけて言葉を飲み込んだ
誰にも伝えることなくさ迷った言葉が幾つもあった
決意したくせにダラダラ一人足踏みばかりして、最後には足踏みをする事さえも止めてしまった
進むことを辞めてその場で蹲って見ないふりをする事を俺は選んでしまっていたんだ
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