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撮影旅行
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「これに対しての質問はいいから出来る限り隠して欲しいんですけど、できますか?」
「綺麗さっぱりとはいかないけど目立たなくなる程度なら……」
「それでも構わないです。 ありがとうございます」
「……ッ」
「少し残ったのは修整してもらえるだろうし、とにかく時間がないからお願いしていいですか?」
「分かった」
淡々と話を進める結葵君の後ろに座って
持っている道具箱から必要なものを全て取り出す
確かにこれだけの沢山の傷跡を隠すのにはそれなりに時間がかかりそうだ
それに隠すために必要なものが多く手元にあるわけじゃないから、今持っているもので補わなきゃならない
撮影入りする迄に終わらせる為にメイク道具を手に取ると傷跡に触れた
「ッ」
「しみない? 不快感だったり何かあったら言ってね」
「……大丈夫です。 それよりも人に見られる方が嫌なんで多少手荒でも構わないからお願いします」
「……うん。 でもなんで急に?」
「撮影方針が変わったんです。 僕はシャツを着ての予定だったけど、監督が折角だからって。 それと今日の夜から雨が降るらしくて今日と明日の予定が組み変わるらしいです」
「……そうなんだ」
「いけそうですか?」
「うん……これなら結構隠せるよ」
「……そうですか」
真っ白な肌に浮かぶ痛々しい程の傷跡
丸く小さな火傷の跡が幾つも
背中に刻み込まれていた
きっと煙草の後だろう
陽の身体にも同じようにあった
傷だから分かる
自分で自分の体をわざわざ傷つけるとしてもよっぽどの事がないとしないだろうし
背中に煙草を押し付けるわけがない
この傷を付けたのは誰なのか
結葵君がふとした時に見せていた冷たい顔はこれに関係してるのか、愛を馬鹿にするのはこの事が起こしたことなのか
聞きたいことは山ほどあったけど
きっとそれら全てを聞く事は結葵君の傷口をもっと深く抉ることになるだろう。浮かび上がる言葉を静かにのみ込むと黙々と手を動かし続けた
「祥さん」
「なに?」
「誰にされたとかどうしてとか聞かないんですね」
「……聞いて欲しいの?」
「まさか。 同情を誘って祥さんを落とすのもいいけど、僕は同情されるのが一番嫌いなんでしませんよ」
「……そっか」
「はい」
背中を向けているから
今結葵君が一体どんな表情をしてるかだって分からない
けれどきっと人を信じてない結葵君が
自分にとって一番見せたくない姿を見せてる事を考えると何とも言えない気持ちになった
「……ここでの撮影最終日にさ」
「はい」
「無事終わったら最終日まで残った皆でご飯食べようって話が上がってるんだって」
「……へぇ」
「結葵君は人付き合いめんどくさいだろうけど。 楽しめたらいいね」
「……」
「息苦しいかもしれないけど、そういうのが少しずつなくなって行けばいいね」
「……ないですよ」
「え?」
「そんなの一生こないです。 人と無理に関わるつもりも誰かのエゴの為に愛されるつもりもないです」
「……」
「愛された所で価値観が違う。 僕にとっての愛し方は普通の人には異常ですから」
「……分からないよ、未来は分からない。 凄く好きな人が現れるかもしれないし、その人とは一緒になれないかもしれない。 けどどんな結果でも好きな人が出来るのっていい事だよ」
「……ふっ、何ですか急に。 慰めてるんですか? それとも僕の行いへの嫌味ですか?」
「……ううん。 ただ、楽しみだなって思って。 皆でご飯食べるのもだし……結葵君の将来もね」
「……」
「特にご飯食べるのは、何だか学生に戻った気分だし撮影頑張った打ち上げみたいでワクワクするなって話……。 はい! 終わりだよ」
最後の切り傷の上に肌と馴染むように特殊メイクをして結葵君の背中にシャツをかけてやる
多少擦れても落ちないようにしたから
服は着ても問題ないだろう
海に入るなんてことは流石にこの温度からして長くはないだろうし、撮るのは体が冷えないように撮影終了間近にするだろうから何とか持つだろう
こんなところで学んだことが役立つなんて思いもしなかったが役立って良かったと昔の自分に感謝した
「祥さん」
「どうした? 何か違和感ある?」
「……」
鏡の前にたって背中を確認している結葵君が静かに名前を呼ばれる
そちらへ顔を向けるといつもと違う少し困った顔をしてから静かに口を開いた
「……ありがとうございます」
「ッ!」
「無理聞いてもらって。 それと、目つぶってくれて」
「……うん。 こちらこそ」
「……」
「よし、じゃあ行くか」
「……はい」
たどたどしく目を伏せてお礼を口にする結葵君がゆっくりと顔を上げる
過去がどうあれ今やってることを
全て肯定する事は出来ないけど
この結葵君が俺にはやっぱり
本当の姿に見えた
時間がかかってもいい
全てが変わらなくてもいい
だけど少しずつ結葵君の何かが変わって行けるような誰かとの出会いが訪れますようにとまっすぐと歩くその後ろ姿を見つめながら静かにそう願った
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