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傷だらけのラブソング
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「なら他に相手がいんのか」
不意に聞こえた低く落ち着いた声。昔の事に意識が引っ張られていた頭を軽く左右に振ると、目の前に立つ二つの瞳を見上げた。
「……居ない」
新しいそんな相手は居ない。祥さんへ抱いた気持ちはたまたまだ。珍しい人間だったから、きっとそれで気になった。それ以外の理由なんて無い。好きだとか、惚れてるだとかそういう感情が存在する事を許しちゃならない。
「ふっ、いいざまだな」
俯いた刹那、鼓膜を揺らす笑い声。
何が一体面白いと言うんだろうか。今でも、恨んでばかりで中身のない事が?それとも結局祥さんを物に出来なかった負けた僕が?
独りのまま、生きている寂しい命が──
「可哀想?」
「あ? 何が可哀想だって?」
「僕の事が」
「……ああ、てめぇの事ならずっと可哀想だと思ってきた。今も可哀想で仕方ねぇよ」
止んだ、笑いを含むような話し方。いつも通りに戻った冷たく落ち着いた声。
この声は昔、もっと優しく僕の傍に寄り添ってくれたのに今聞こえてくるのは遠くて冷たくて、感情のない寂しい声音。
「てめぇを可哀想だと思うのはよ」
聞いていたくない。少し、惜しい事をしたと思うから。どうしてあの日龍騎さえも拒絶したのか、何度振り返っても自分のしてきた事に鳩尾の辺りが痛む。
「何よりもてめぇが……──愛されてぇと思うのに、その気持ちを認めねーからだ」
え? 今のは、聞き間違いだろうか。
「否定したって、出来るもんじゃねーんだよ。お前が誰かに惹かれてる事なんか見てたら分かる。また傷つけんのが怖くて離れるつもりなのもな。だから腹が立つ。てめぇはいつまでも可哀想な僕で居るつもりだよ、少しは根性見せろ結葵」
風も、雲も、繰り返させる呼吸ですら、全てのものが止まった様な感覚。
研ぎ澄まされたのは聴覚だけで、視界に映るもの全てが一瞬だけ動くことを辞めてしまったような、不思議な感覚が全身を掛け走った。
待ってくれ、さっきから何なんだ。これは夢か? 全部聞き間違いか?
僕が愛されたい? 僕を結葵と呼んだ?
一体、目の前に立っているのは誰なんだ。僕を恨んでる龍騎じゃないのか……。
「……何間抜けな面してんだよ。昔のお前は嘘じゃねーだろ、間違いを犯したお前も嘘じゃねーけどな。消えるわけもない、けど先に俺がてめぇを許してやる」
「……ゆる、す?」
「ああ、過去のお前を許してやる。それから、弾かれ者だった俺を一番の友達として認めて頼ってくれたお前を俺は覚えてる」
「何を、さっきから……」
「言われてんのか分からねえか?」
次々に発せられる言葉。
一つ一つの単語は流れ込んで来ても意味がわからない。わかれない。
どうして、許せる?だってそうだろう。一番の友達だと言ったそいつが、龍騎の夢を壊したのに、何で許そうだなんてそんな馬鹿な事を。
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