アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
先制
-
一通り説明が済むと、小栗さんは「すみません。次の予定があるので」と言って、先に戻ってしまった。
仕方ないけど、ちょっと寂しい。
挨拶を終え会議室を出たところで、河野さんに声をかけられた。
「佐藤さん、少し良いですか?」
「え?あ、はい」
何?何か作業の事かな?
「佐々木さんすみません。ちょっと佐藤さんに、相談があって…」
相談?
佐々木さんが、少し困った顔をしたけど、すぐに笑顔で返事を返す。
「分かりました。佐藤、じゃ受付横の自販機のとこで待ってるから」
佐々木さんを見送った後、元いた会議室に再び入るように言われた。
バタン…
ドアが閉まる音がやけに大きく聞こえる。
「…私、佐藤さんに言っておきたい事があるの」
二人きりの会議室で、河野さんがサラリと前髪をかき上げて俺を見た。
「時間がないから、結論から言うわ。
私…小栗くんのこと、本気で好きなの」
一瞬、何を言われたか分からなかった。
それを頭で理解した時、なんとも言えない黒い感情が溢れて来た。
「あの……何で、それを俺に?」
「ふっ。どうしてかな?…佐藤さんが、小栗くんと仲が良さそうだから、かな?」
目を細めて首を少し傾けた。
パッと見、笑顔だけど、目が笑っていないような気がして怖い。
「あの…僕、別に小栗さんと仲が良い訳では…」
「そうなの?…この前、小栗くんのスマホ見せてもらったんだけど…何か仲が良さそうなやり取りしてるよね?この前の打ち上げの時も、二人で抜けたし…」
え?小栗さんのスマホ?
そういうのを見せてもらえる仲なの…?
いや…アキちゃんが「わざと携帯入れ替えた」って言ってたし、あの時見られたのかな?
何にしろ、頭を何かで殴られたような、ぐわんとした感覚がした。
河野さんがふふっと微笑む。
「今回、私から課長に頼んでメンバーに加えてもらったの。
色々と勉強したいからって言って」
「…そう、なんですか…」
「今回のジョブは、地方支社と連携して行うから、頻繁に出張に行くのよ。…小栗くんと一緒にね」
何が言いたいんだろう。
河野さんが何かを伺うように俺の顔を見ている。
「私、ここで小栗くんとの距離を縮めたいの。ね?佐藤さん、協力してくれない?」
「え?…協、力?」
何を?どうして俺が?
「そう。私が小栗くんとうまく行くように、小栗くんと仲の良い佐藤さんに色々と相談に乗ってもらいたいの」
ズキン、ズキンと胸と頭が痛む。
河野さんが「お願い」と、手を合わせて眉を下げて俺を見た。
この人は、なにを言っているの?
俺が?相談に乗る?
「何か、問題でもある?」
何も反応しない俺に痺れを切らしたのか、河野さんが首を傾げた。
「えっ?いや、ないですけど…」
「うん。良かった!味方がいると嬉しいなっ。ありがとう」
それから、俺は訳が分からないまま、河野さんに流されて連絡先を交換する羽目になった。
「じゃ…佐々木さん待たせちゃ悪いから…。あ!この事は誰にも秘密にしてね?」
河野さんは優雅に微笑んでから、会議室を出て行った。
それをぼんやり眺めてから俺も会議室を出て、佐々木さんの所へフラフラと向かった。
ちょっと、今、何が起こったの?
河野さんが、小栗さんの事が好き?
うん。それは前からそうかもと思っていたから…そこまでショックではない。
その後だ。
俺が、河野さんと小栗さんがうまく行くように、協力するの?
俺、そんな事したくないよ。
でも…断れなかった。
いや、断れる訳がない。
だって、断る理由が思いつかない。
頭も胸も痛い。
今回の仕事…うまくこなせるだろうか…
不安やら何やらで頭が真っ白になって、俺は考えることを放棄した。
その日一日、どうやって過ごしたか、後から考えても思い出せなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
125 / 559