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prologue
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「これはなんだ」
「いや、入社して間も無いので資料を纏めようかと思いまして」
若手社長 赤城 誓也 の半ば叱責の混ざる問いに柔かに答える新入社員 伊勢谷 翔 はその柔らかな笑みとは相反して焦っていた。
伊勢谷 翔、その正体はスパイだ。
社長の代が変わり混乱している契機ならばこそと重要な情報を集め、渡す為に社員として入ってきた、密命を受けたスパイである。
…本来ならば新入社員の叱責を社長が行うなどという事はない。
大企業ならば以ての外だ。
ではどうしてこんな異例の事態になっているのか。
「ほう、ではこれはどう説明するつもりだ?これはお前のロッカーに入っていて良い書類ではない筈だが」
「……え、…と…それはですね」
微笑みが若干硬くなる。
それもそのはず、その重要書類は幹部が持っている物だからだ。
鍵付きの引き出しを隙を見てピッキングし奪取したそれは、今日雇い先に持って行き金を受け取る手筈になっている。
今日奪取し今日渡す。
その前にロッカーに入れたのだ。
別にミスしたわけではない。
誰が一新入社員が使った鍵付きロッカーを社長に漁られると思うだろうか。
「…う……」
鋭い視線が突き刺さり柔和な笑みが気まずそうな表情な変わる。
口八丁手八丁出来るようにそれなりに訓練したつもりだがこの余りに詰んだ状況では良い出任せも思い浮かばない。
「…っだから……」
「もういい。」
若干震えた声色で言い淀む翔に落胆した赤城は溜息を吐いて端正な顔を顰めさせた。
さて…どうするか……
こいつがスパイである事は調べた内容と今の表情と声で確定した。
このまま送り返すなどという選択肢は、無い。
たとえ書類を何も持たせずクビにしても奪った書類には目を通しているだろう、そしてその情報はどれも他企業にバラせば経営に大きく影響が出る。
ただでさえ上層部に若手の風が舞い込み混乱が生じているというのに、だ。
逆スパイとして雇うのもいいだろうが奪取出来る能力は兎も角この詰めの甘さ、つくづく使えずに終わるだろう。
…それどころかそこからこちらの情報が漏れればたまったものではない。
…答えは一つだ。
「……連れて行け。」
「…ッ」
翔を例の部屋に放り込む為部屋の様々な所に隠れていた暗部に指示を出したが翔も流石にそれは覚悟していたようで殺気立つ。
懐から小型のナイフを出し、翔は素早く踏み込み前後左右に現れた暗部の攻撃を紙一重で躱した。
そして重要書類がばら撒かれた大きく頑丈なデスクを飛び越えて赤城の後ろに回り、首元にナイフを突き付けた。
「…動くな、動けば刺す」
先程までの元気でチャラそうな、人を楽しませる雰囲気とは一転、穏やかではない表情で暗部を脅し付ける翔。
窓を割ってそこに飛び込んで逃げるにも見事な二重の防弾ガラスだから出来る筈も無く、万が一出来たとしても地上45階のこのビルからそれをすれば落ちている間に窒息死するだろう。
退路も何も有ったものでは無い、無帽、それは翔も理解しているが、元のやんちゃな性格も相俟って足掻かずには居られなかったのだ。
「…そんな玩具で俺に勝てると?」
赤城はその表情を薄暗い笑みに変え翔を見下したように言い放つと、翔の持っていたナイフを力に任せてぶん取り、咄嗟に拾えないよう遠くの床に打ち捨ていきなり背負い投げで翔を硬い机に叩きつけた。
ダンッ
「…い”…ッッ…!!」
背骨が割れたんじゃないか、そう誰もが思ってしまうような速さでゴミのように投げられた翔はジタバタともがきながら苦痛に顔を歪めている。
がその隙は命取りだった。
「ーーッ〜〜!!……」
ガタガタと机の上で唸っている華奢なスパイを複数人で押さえつけ、抵抗叶わず机に縫い付けられた翔。
そのスパイに暗部が何か得体の知れない薄桃色の液体の入った注射器を刺した途端、言葉にならない悲鳴を上げた後眠るようにその意識を沈めていった。
「連れて行け」
一応抵抗出来ないように足を枷で確かに繋ぐと、まるで翔の体重なんて感じて無いのではないかと疑う程ひょいと持ち上げて、指示してあった部屋に手際よく運んでしまった。
「…はぁ…まったく」
一人部屋に残った赤城は溜息を吐いているもその表情に疲労の色は伺えない。
代わりに加虐的な笑みを浮かべて窓の外を見つめていた。
「さあ、楽しませてくれよ 伊勢谷 翔」
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