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月の舞姫・9
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王様のお仕事が終わってから、また後宮に戻って2人きりでゆっくり過ごした。
「お前はきれいだ、アイタージュ」
王様が、着飾ったオレを見てしみじみと言った。
「大臣の用意したどんな美姫より、お前の方がきれいだった。だからお前を選び、賭けに選んだ」
大きな手のひら、整った指にそっと頬を撫でられて、じわじわと顔が熱くなる。
「き、れい、って……」
王様の言う「きれい」ってどういう意味なんだろう?
「みにくくない」と「美しい」が違うように、「きれい」と「美しい」も違う気がする。どんなに頑張って着飾っても、お化粧しても、多分オレは「美しい」にはなれないんだろう。
けど……たくさんの美しいお姫様よりオレを選んでくれたなら、それでいいのかも知れない。
どんくさくてみにくくてみすぼらしいオレが、くろがね王のお妃様だなんて。旅芸一座の仲間は、なんて言うだろう? 座長は? そういえば、宴会をぶち壊したとかで、罰を受けてないんだろうか?
「あの、一座のみんなはどうしてますか?」
気になって、恐る恐る王様に訊いてみたら、もう旅立ったって言われた。
「今朝早くに城を出た。お前との別れを惜しんでたぞ」
それはウソだと思ったけど、わざわざ口には出さなかった。みんながオレみたいな役立たずと、別れを惜しむとも思えない。
そもそも流れ者ばかりの旅の一座だ。来る者拒まず、去る者追わずが当たり前で、人数もメンバーもしょっちゅう変わる。訳アリの人だってきっと多いと思うけど、誰も過去を詮索しないし、自分から語ることもない。
親子連れで仲間に入って、子供を残したまま親がいなくなることもあった。
捨て子を拾って、育てることもある。
オレは物心つく頃から一座にいたけど、両親の顔も名前も知らない。座長も誰も教えてくれなかったけど、多分そうして置いて行かれたか、拾われたかした子供なんだろう。
でもそういう子はいっぱいいたから……特に気にしていなかった。
それより、みんなが色んな芸を覚え、仕事を覚えて一人前になってくのに、オレだけずっと役立たずのままで。そっちの方が気になった。
それでも一座を追い出されずに済んだのは、座長さんのお陰だ。
せめて座長さんだけには、今までお世話になったお礼、言いたかったんだけど――。
「座長さんは? 何か言ってなかったですか?」
そう訊くと、大きな手でふわっと頭を撫でられた。抱き寄せられ、形の良い黒い瞳でじっと見つめられる。
「あの座長にはお前を王妃にするよう言われた」
「王妃、様?」
王妃って……つまり、王様の正式なお妃様ってことだよね? ご正妃っていうか、1番のお妃っていうか……。王様には何人ものお妃様がいるのが普通で、その中の1番の人。
今はお妃様はオレだけだけど……えっ、王妃、って?
「えっ、なんで?」
オレみたいなのがお妃様になれるだけでもスゴイことなのに。王妃様になんて、なれる訳がない。
なんで座長はそんなことを?
訳が分かんなくて戸惑ってると、王様にふふっと笑われた。
「さあ、お前が素晴らしい舞姫だと知って、手放したくなかったのかも知れん。お前を王妃にするのが、身請けの条件だと言って来た。無理難題を言えば諦めると思ったのだろうが、あいにくもう、お前はオレのものだからな」
王様のもの――。それはそうなんだけど。そう、昨日の夜に誓ったんだけど。
大臣が怒ってた理由が分かった気がした。
うわぁ、と思う。
顔が熱くてたまらない。
「最初は、あの宴会をぶち壊すのが目的だった。だが、もう手放す気はない」
オレを抱き上げ、どこかに運びながら、王様が言った。
「わが妃に。アイタージュ」
名前を呼ばれて、震えながら「はい」とうなずく。
どうしよう、オレ、今までこんな風に求められたこと、なかった。オレはずっと、いてもいなくてもいい役立たずで。怒鳴ったり罵ったりする以外に、話しかけられることなんて滅多になかった。
嬉しい。怖い。
心も体もぶるぶる震えて、何て言えばいいか分かんない。
連れて行かれた先は、王様の寝室だった。白い清潔な布で整えられた、広い寝台の上に落とされる。
「お前が欲しい」
王様がそう言って、オレに軽く口接けた。
「お前もオレが欲しいだろう?」
確信めいた言葉。心の中の願望を言い当てられて、ドキッと心臓が飛び跳ねた。
「ほ……」
欲しいです、とは恥ずかしくて言えない。
豪華な裾の長い服が、ゆっくりと脱がされる。
脱がされた先に何があるのか、もうオレは知ってて――知ってるから、もう恥じらうしかなかった。
「昨夜のお前は、どの姫よりも可憐で、きれいで、情熱的な目でオレを見てた。オレの前で踊りながら、オレを欲しがって誘ってた。違うか?」
「そんな、誘っては……」
誘ってはない、と、思うけど。
「誘っただろう、アイタージュ?」
ひどく整った顔に、魅力的な笑みを浮かべながら訊かれると、「はい」と認めるしかなかった。
王様が一旦身を起こし、自分の服を脱ぎ捨てた。鍛え上げられた美しい体、王者の姿、完璧な肢体が明るい部屋に晒される。
ああ、また、儀式が始まる。そう思うだけで、股間がはしたなく盛り上がり、濡れた。
「今も誘ってるな?」
優しく笑われ、そこを撫でられて、恥ずかしくて腰が浮く。
「うあっ、はいっ、王様……」
上ずった声で返事をすると、「セレムだ」って言われた。
「オレの名はハガン・デミル・イル・セレム。セレムは、かつて母だけが呼んでいた名前。これからはお前にだけ、その名を許そう」
それがどういう意味なのか、分かんない程バカじゃない。
「セレム様……」
震え声で呼ぶと、「ああ」って優しく返事をしながら、整った顔が寄せられた。
唇を寄せられ、重ねられて、求められるまま厚い舌を受け入れる。
貧相な胸を撫でられると、たちまち息が弾みだした。
脚を開くことに恥じらいはあるけど、もう疑問も恐怖も何もない。すべらかな肌、厚い胸、たくましい腕に包まれる。王様を、体の奥深くまで感じる。
今は真昼で――窓の外にも月はないけど。代わりに王様に見つめられ、オレはその温もりに身を委ねた。
(月の舞姫・終)
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