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黄金の王妃・23
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オレは北の隣国の、王太子の第一王子だった。お妃様の産んだ子じゃなくて、移民の血を引く一般人の子。まったく覚えてないけど、4歳までは王宮で暮らしてたらしい。
当時から、命を狙われてた、って。
「じゃあ、オレを今でも狙ってるのは、オレの弟とその関係者?」
ナオエさんの手を握ったままで問うと、オレの背後で「今でも!?」って王女様が悲鳴を上げた。ナオエさんも、びくっと体を固くしてる。
どうやら、湖での襲撃もさっきの外務大臣の件も、何も耳に入ってないみたい。
簡単に話すと、すっごく驚かれた。
「まさか、だって全部秘密裏に進めてるはずよ!? 私が来たのだって、表向きはこちらの陛下との縁談だもの。あなたのことは、まだそう何人も知らないのに……」
うろたえて顔を青くするルリ王女は、嘘を言ってるようには見えない。
けどむしろ、まだ限られた人しか知らないのなら、黒幕が誰なのかも分かりやすいんじゃないのかな?
「ああ、あなた、大丈夫だったの、タージュ? ケガはないの?」
おろおろとドレスの胸元に手を当てる、心配そうな王女様に、「はい」とうなずく。
一瞬、のどのアザや体中のかすり傷のことを思い出したけど、もうすっかり治った後だ。もしかしたら王様は、彼女を心配させないために、オレのケガが治るまで、滞在を延期したのかも知れない。
やっぱり王様はすごい。聡明で、優しい。
こうして自分の身元が分かったっていうのに、胸を占めるのは郷愁よりも、やっぱり王様への思慕だ。
襲撃のことだって、狙われた理由が分かれば、何となく怖さが薄れて来た。自分のことだっていうのに、よその国のお家事情だと思うと、なんだかすっごく遠い出来事のように感じる。
何も覚えてないし、思い入れが何もないから? それとも、どうしようもないからかな?
お家騒動だっていうなら、セレム様と同じだ。どうにかしようっていうんなら、敵を全部ギロチンにかけるしかない。でも、それも何か、現実味がない気がする。
「秘密裏に進めてる」っていう言葉より、オレには「表向きは縁談」っていう言葉の方が、重要に思えた。
「ご心配、ありがとうございます。ルリ様」
オレは王女様に礼を言って、にっこりと笑って見せた。
イトコで味方だって分かっただけでもホッとしたけど、ホントの縁談じゃないんなら、もっと嬉しい。
「あの……縁談のお話、表向きだけだったのですか?」
元の場所に戻りながら訊くと、王女様は「ええ」とうなずいた。
「この国の大臣から、私の父に内密に話があったの。『我が王妃はそちらの国の王族のお血筋のようですが、それについてお心当たりはございませんか?』とね」
「大臣が……!?」
それを聞いて、ええっと思った。大臣が? オレのために、内密に?
そんなこと言われたって、急には信じられなかった。だってオレは、あの人に嫌われてると思ってた。
『王妃には強力な後ろ盾のある姫君がふさわしい』
いつもそう言って、オレを……。
ああ、でもさっきは……。
『王妃様!』
両手を広げて守ってくれた、さっきの騒動を思い出す。
『オレを信じるのと同様に、大臣のことも信じて欲しい』
湖で王様に言われた言葉が、ふっと頭によみがえる。
「でも父や伯父が出向けば、どうしても大ごとになるでしょう? だから私の縁談ってことにして、あなたの顔を見に来たの。あなたも一目見て、分かったはずよ。タージュ」
王女様の言葉にうなずきながら、色んなことを考えた。
もしかして、後宮にたくさんのお姫様を引き入れたのは……ルリ王女を目立たなくするため? それはオレのため? いや、オレの身元をハッキリさせて、強力な後ろ盾を得るためだろうか?
じゃあ結局、王様のため?
よく分からない。何が本当で何が目くらましだったのか、頭の回転のよくないオレには、もうよく分かんなかった。ただ、そう悪い状況じゃないって、それくらいは分かった。
「あなたの王子としての身分は、きっと回復すると思うわ。伯父は……あなたのお父上は、12年前にあなたを助けられなかったこと、とても悔やんでいらしたみたい。内々にだけど、できるだけのことはするからっておっしゃってたわ」
王女様は熱心に話してくれたけど、王子としての身分なんかは、どうでもよかった。
父親のこともどうでもいい。ただ、それがオレの王様、「くろがね王」セレム様のためになるんなら、オレの方こそ、できることは何でもしようと思った。
と、王様が現れたのは、その時だ。
「アイタージュ、水入らずで話せたか?」
突然の君主の登場に、王女様たちは慌てたように礼をした。
「セレム様……!」
オレは逆に立ち上がり、人目もはばからず、王様に抱き付いた。
無作法な態度をたしなめられることもなく、たくましい腕に抱き返される。
「驚いただろう?」
ふふっと優しく笑われて、素直に「はい」とうなずき、彼の美しい顔を仰ぎ見た。
「オレも、ここに戻った時に聞かされて、驚いた。あの大臣のことだ、後宮の件の全てがカモフラージュだったとは思えないが、お前の身元にたどり着くまでに、かなり骨を折ったのは間違いない。まずは、あの旅芸一座を捕まえることから始めたようだからな」
「旅芸一座……?」
イヤなことも辛いこともいっぱいあったのに、やっぱり思い出すと懐かしい。
いつも適当なところでオレをかばってくれた座長は、オレの身元も知ってたんだろうか? 狙われてたことも? だから、偉い人の前に姿を現さないようにって言ってたのかな?
「あの座長に言われるまま、お前を王妃にしてよかった、アイタージュ」
王様にしみじみと言われ、「はい」とうなずく。
もしかしたら、国内外にお披露目した、あの盛大な結婚式のせいで、元々身元がバレてたのかも知れない。
うちの大臣の働きかけがなくても、その内先方から話があったかも。或いは、見て見ぬフリをされたかも。大臣の働きかけのせいで、狙われることになったのかも知れない。
でも、そんなことはどうでも良かった。
「お前の身は、一生をかけてオレが守る」
聡明で勇猛で、美しく完璧な「くろがね王」にそう言われたら、怖いものなんて何もない。
自分が何者なのか分かった今は、足元だってふらつかない。しっかり両脚で立てる気がした。
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