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曇天
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「葵ー!飯食おうぜー!」
四限目が終わりいつも通り潤が僕を誘いに来た。
「今日は……ちょっと用があるから、ごめん」
今朝は一条が起きる前に家を出ようと急いでいたので、料理をする時間なんてなかった。朝食も食べていないし、弁当も作っていない。
それでも食欲など欠片も湧いてこなかった。
食べないのに一緒にいることはないだろう。
でも理由はそれだけじゃなかった。
「えー、そっか。まあ用あるならしょうがないよな。じゃ、また明日な!」
「う、ん…」
教室を出る潤の背中が見えなくなると、ぼんやり窓の外に目を移す。
昼間なのに太陽を完全に隠した曇天は、僕をより鬱々とした気持ちにさせた。
なんか…潤と上手く話せない…
というか、話したくない。
ちゃんと風呂に入ったし、掴まれた腕の跡も残っていないので気づかれることはないはずなのに…下手に潤に近づいたら昨晩のことがバレるんじゃないかと気が気でなくなった。
あんなに風呂で体を洗ったのに、体の奥から汚れている気がして気持ち悪い…
知られたくない。知られたらいけない。絶対に…
「あれ?おでこどうした?」
長い指が僕の前髪をスッと上げた。
「っ!!」
唐突な接触に驚き、逃げるようにぐっと仰け反る。
目の前には、さっき出てったばかりの潤がいた。
「どっ、…どうしたの?」
「あ、いや〜水筒忘れたから取りに戻ったらなんか葵がぼーっとしてたからさ。
いつ気付くかなーって近寄ってみたの。
で、この傷どうした?」
昨日ドアにぶつけた額の傷を指差される。
少し大きな傷だったので、朝大きめの絆創膏を貼っていた。
前髪に上手く隠れていると思ってたけど…
「あ…いや、ちょっと…転んで頭打っただけ」
不自然さを隠すように笑うと潤は心配そうに眉を寄せた。
「大丈夫かよ…前も階段から落ちたって言ってたし……。もっと気をつけろよ。
頭なんて、シャレになんないだろ」
うん、と作り笑いを浮かべて頷いた時、健人が教室にやってきて潤を呼んだ。
潤も返事をして、健人と一緒に教室を出て行った。
そうだ、潤には健人がいるんだ。
健人だけじゃない。潤には僕と会うまでに沢山の友達がいた。
僕が一人になっても、潤は一人にはならない。
きっと、いつか、僕のことは忘れられる。
それでいい。
それがいい。
僕は、一人でいた方がいいんだから……
寂しさなんて、感じない。
感じない…
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