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脱力
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嫌なことというのは、どうしてこんなに重なるのだろうか。
東さんとの出会いを良いものとしても、中年のお客さんにストーキングされ路地裏に連れ込まれたことだけで、今日は厄日と言えた。
油断大敵とはよく言ったもので、ここ一ヶ月程平穏な日々を送っていた僕は、当然のように今日ももう何もないだろうと思っていた。
「元凶」は家にいるのに…______
「おかえりぃ」
もう深夜2時だ。母はぐっすりと眠っている。
だが寝ていると思っていた一条は、電気の消えた暗い部屋の中、起きて僕の帰りを待っていた。
「…ただいま戻りました」
何事もなかったように装い、一条の横をすり抜けようとすると、いつかのように手首を掴まれた。
「さっき、誰と話してたの?」
何も悪いことはしてないのに、突然下がった一条の声のトーンにギクリと背中が震えた。
「い、居酒屋のお客さんです。…道で偶然会って、少し話しただけです」
「偶然?偶然家の前で会った?
送ってもらったんじゃなくて?」
「そんなんじゃありません!」
実際、送ってもらったなんてことはなかったので、反射的に否定する。
一条はふーん、と疑うような相槌を打った。
「ま、いいよそれは。問題はさ」
後ろから気持ち悪いくらいそっと抱き締められた。一条の掌が僕の胸から腹、際どいところまでゆっくりと辿る。
「この体が男を誘うようになってるってことだよね?」
「あ、あの人はそんなんじゃ…!!」
「ほら、静かにしないとお母さんが起きちゃうよ?」
「っ…!」
一条は後ろから僕のシャツに手を入れ、胸の突起に触れた。
「なっ、何するつもりですか」
「ははっ、今それ聞く?分かってるでしょ?
セックスだよ」
返ってきたのは一番聞きたくない答えだった。
「なんで…だって一ヶ月近く、何もしてこなかったのに……僕に飽きたんじゃ、なかったんですか」
一ヶ月だ。
一ヶ月何もされなければ、流石にもう飽きたのかと思うだろう。
体の痛みや怠さに悩まされることもない。
友人に知られないよう気を張る必要もない。
だからこそ居酒屋のバイトで以前より格段に慌ただしくなったにも関わらず、そんな生活に慣れることができた。
一条は鼻で笑うと僕を畳に押し倒した。
「最近葵くんに手を出してなかったのは一応忙しい君を気遣ってのことだったんだけどね。
こんな夜中に男と立ち話するくらいの余裕はあるみたいだし、そんな気遣いは無用だったかな?
少なくとも僕が君に飽きることは当分ないから安心しなよ」
理不尽だ。意味がわからない。
頭では抵抗すべきだと分かっているのに、体が動かない。
押さえつけられているせいなのか、それとも他に何か原因があるのか。
いつからか、抵抗してもどうせ逃げられないという諦めが頭に付きまとうようになった。
そんな自分に嫌気がさして、自分の愚かさに笑えてくる。
僕はこれからも、この男の気分次第で弄ばれることになるんだ。
僕の服を脱がせてくる一条が、僕の顔を見て一度手を止めた。
「何笑ってんの?」
笑ってる?
そうだとしたら、可笑しいのは自分自身だ。
もういい。
僕には……潤も、健人も、リョウさんもいる。
今だけ我慢すればいい。
朝は必ず来る。朝が来れば、太陽と共にまた平穏な1日がやってくる。
今だけ。辛いのは今だけだ。
一条の手が、服を脱がされた僕の肌に触れる。
腕の、足の、首の、体中の力が抜けた。
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