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後悔した夏の日3
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─────2ヶ月前……
5月のGW明けの時のことだった。
俺は見た目を派手にしている割に読書が趣味だった。
小さい時から本が好きで、今でも少なくとも週に2~3回は図書室に通っている。
今は推理小説…特に本格ミステリーがブームだった。
しかし、読んでいるシリーズの続きを借りにきたのに、何故かその本が棚にないのだ。
「ウソだろ?この前まであったのに…」
俺はもどかしさで頭を抱える。
確かに、前回借りた時まではあったのだ。
それぞれ個々のタイトルで左から順に並ぶその配列。
1話完結の話だから、抜かして読んでもストーリー的には問題はないはずだ。
しかしそれでも、出版された順に読んでいきたい派の俺には今のこの状況は受け入れ難かった。
「クッソ!超読みてぇー!」
何十年前の昔に出版された本だった。
著者は有名だけれど、今流行ってるというわけではない。
何故自分が読み進めるこのタイミングで続きがなくなっているのか。
貸し出しされた痕跡、抜き取られた隙間を見て興味を持ったのだろうか。
実際自分もそうやって借りたことはあるけれど…
何も俺が次に読もうとしている本を選ぶことはないだろうに……
だからといって、本屋でその1冊だけ買うのも、遠く離れた街の図書館に行くのも面倒だった。
できれば図書室で借りてしまうのがベストなのだ。
このモヤモヤとした気持ちをどこで晴らそうか。
グルリと周りを見渡しても、1人でこっそり図書室に来ている新入生の俺に、知り合いなどはいなかった。
ならばせめて、最近仲良くなった司書さんに愚痴らせて貰おう。
「ねぇ杉山さん」
杉山さんは、50代後半の司書さんだ。
最初「オバちゃん」と声をかけたら酷く怒られてしまったが、週何回も通ううちにすっかり打ち解けて顔馴染みになった。
「横溝正史の続きさ、読みたいんだけど、借りられててないんだよ~」
甘えるようにオバちゃんに泣きつく。
上っ面な付き合いしかできない俺にとって、杉山さんは素で話せる数少ない人だった。
もっとも、杉山さん自体が人の良いオバちゃんで、話しやすいのもあったけれど…
「あらあらあら、ついさっきよ?借りてった人、まだ図書室いると思うわ」
そう言って、杉山さんは‵そいつ′を指差した。
愚痴ってオバちゃんに慰めて貰おうと思ったのに、なんという収穫だろう。
―――そして俺は、その男と出会う。
背の高いイケメン。
でも、どーみたって、本なんか読みそうもないガタイのいい男だった。
「え~アイツゥ~?」
なんか違くね?
文系女子!とか期待してたのに、めっちゃ真逆の体育系男子!って感じ。
ま、俺も人のこと言えないけどな。
茶髪でピアスでチャラいもん。
でもホラ、俺大学デビューだし(笑)
「宍戸君よ。3年生の」
コッソリと杉山さんが教えてくれる。
「へぇ~」
……でもアイツ、本読むの遅そうだなぁ。
家の片隅で放置された本のイメージが脳内をよぎる。
……つーか、途中で読むのもやめそう。
あの見た目じゃモテるだろうし。
女の子とデートに忙しいんじゃね?
……そして返すの忘れそう。
そもそも充実した大学生活を送ってそうなのに、本読む時間なんてあるのか?
「ありがと。杉山さん」
見た目だけの偏見で俺は結論を出す。
仕方ない。なかなか返してくれないのなら、先に貸して貰おう。
「宍戸先輩」
やつの手には案の定、俺の横溝正史がある。
「先輩も横溝好きなんっすか?」
手に握られた本。
古い本だからか、少し紙は黄ばんでいるが、あまり読む人もいなかったのだろう。
他のシリーズ同様、綺麗な状態だった。
「あ…ああ」
ナンダコイツ。見た目の割に口下手か?
「俺も、今ハマってて!最初から順番に読んでるんですよぉ~」
コイツ、頭一個分俺よりデカイ。
俺は170㎝弱だから、コイツは180㎝以上はあるのだろう。
ふん。そのルックスで高身長など贅沢な。不公平な神様め。
「それで、丁度その本が続きなんッスよ!」
チラリと、横目で本を見る。
「先輩は、これから返却ですか?」
「………イヤ…」
うん。知ってた。
「うわぁー!じゃあ先輩に先越されちゃったかぁ!俺もう続きが気になって夜も眠れないッス!」
ウソです。夜はぐっすり眠れます。
「あ、それじゃぁ…」
でも、続きが気になるのは本当だから。
「え!いいんっスか?!」
何か言おうとしていた人の良さそうな男の手から、本を奪い取る。
「明日には返しますんで!明日の朝一に杉山さんに渡すんで!!助かりますー!先輩、大好き!」
そう一息に捲し立てて、俺は悠々と本をゲットする。
「じゃ杉山さん、明日の朝一コレ返しに来るんで、先輩にまた渡してください」
ポカンとしてるオバちゃんに、最後に一言付け足す。
「ほぉんと、愛してますよ杉山さん…チュッ」
小声で投げキッスまでつけて俺は本を手に、陽気な気分でアパートに戻ったのだ。
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