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頭が真っ白になる、とはきっとこういうことを言うのだろう。
どうして、いきなりそんなことを。
喉から一切の水分が奪われてしまったかのように、声を出すことができない。
「なん、どうして...」
やっと口から出てきたのは、情けなく震えた小さな声。
「言わなくても分かるでしょう?大介がこんな風になって...恋人だか何だか知らないけれど、貴方の顔を見るだけで苦痛なの。先生にはもう貴方を病室に入れないように伝えてあるから。もう大介のことは放っておいて」
明子はやはり、雛の顔を見ることなく淡々とそう言った。
みっともなく泣いてはダメだと、そればっかりが頭の中を占めていてどうやって病室を出てきたのか覚えていない。
気が付くと病院の待合室に座っていて、誰かに肩を揺すられた。
「雛、ひな!」
「...っ」
ハッとして顔を上げれば、鮮やかな金色が目の前にあった。
「おい、雛?連絡がなかったから迎えに来た。こんなところで何してんだ?お前も診察受けるのか?」
「ら、ん...ちゃ、」
何とか嵐の名前を呟いた雛だったが、嵐は眉を寄せて肩に置いていた手で雛の手を握った。そして隣に腰を下ろし、雛の顔を覗き込む。
「...なに、お前そんなひどい顔して」
嵐のヘーゼルの瞳に写る自分の顔は、確かにひどい顔だ。今にも倒れてしまうんじゃないかと思う程顔色が悪い。
こんな顔してちゃ、またらんちゃんに心配かけちゃう。昨日だって、たくさんお世話になったのに。
「へへ、そうかな...」
視線を逸らして無理矢理笑ってみるが、雛の変化に敏感な嵐を誤魔化せる筈がなかった。
握られている嵐の手に、ぎゅっと力が籠められる。
「雛、辛いならちゃんと言え」
普段より、数段低い声。
顔を見なくても分かる。きっとらんちゃんは怒ってるみたいに、眉間に皺を寄せてる。
僕のために、怒ってくれている。
ツンと鼻の奥が痛くて、じわじわと目頭が熱くなっていく。
「ったく...泣き虫のくせに痩せ我慢してんじゃねーよ」
その言葉と共に、ふわりと香った嵐の纏うフレグランス。
「...っふ、ぅ...ッ」
嵐に抱き締められたまま、雛は声を殺すように泣いた。
もう大介さんには、会えない。
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