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010 保護
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それは外交から王都ヴェルトリースへの帰りのこと。その日は、普段よりも特に暑い日であった。
この国の象徴でもあった水神(リィーリ)の原泉は、かつて此処に水が存在していたと感じさせないほど枯れきっていた。
水神の存在を失ったとされておよそ500年。
その後渇水が進み続け、遂に泉は枯れ果ててしまったのだ。
あとは王都に残る『水神の泉』だけが、この国の唯一の給水限だ。
しかしあの泉だけでは、いずれこの国が成り立たなくなるのは目に見えている。
水神がその名の通り雨を降らし、源泉を復活させるのであれば、水神が国を発展させる……というのも過言ではないのだろう。
俺は妖獣――フランシェに乗り、そしてギルトはリドシェに乗って、原泉の周りを巡回する。
妖獣は基本雌で、フランシェは俺の本名、サーディーフランから。
リドシェはギルトリドから取っている。
相方の妖獣に自身の名前をつけるのは、その妖獣が相方の半身であることを意味している。
源泉の周りにある『砂香(じゃこう)』の砂は体力を徐々に吸い取っていく。
流石に妖獣といえど、リドもフランも走りにくそうだった。
この定期的に行わなければならない源泉の見回りは、乗り手である俺たちにも結構な負担がかかるものであった。
それでも、ギルトのリドはこの暑さ、砂香の上でも参ること無く元気に走り回っている。
乗り手の紅の騎士ギルトも満更でもない様子だ。
――流石は太陽の守護神とされる紅の一族だ。
それも砂香の砂の上をこれだけ走れるのは、名のある妖獣と妖獣使いといえど、ギルトとリドの右に並ぶものはいないだろう。
最も、ハーバイル国王とその妖獣――バルシェットは例外なのだが……。
今日も唯の定期的な巡回であった。
源泉が枯れてからは、この地は人どころか生き物すら住むこともままならないほどの荒野となった。
(今日も異常無しか……)
早々に切り上げ、帰路につこうとしたその時だった。
「*******!! ********!!!!」
遠くから聞こえた、悲鳴のような声。
このリィーリの原泉は、簡単に人が入り込める所ではないのだ。
吹き荒れる風の音しない――そんな大地に響く、聞こえるはずのない声。
村や街も遠く、岩と荒野で囲まれた道のりを超えるには相当な力を持つ妖獣を使うしかない。
我等がここに来れるのも、王の恩恵があってこそだ。
――――そう、妖獣の中でも優秀な妖獣を持った王国関係者ぐらいにしか、この地に足を踏み入れられないはずなのだ。
(まさか……)
聞き間違いかもしれないが、その悲鳴は確かに聞こえた。
気のせいなのか、幻聴なのか……そんな思いが頭をよぎる。
水を留めておくために作られた大きな源泉の穴。
歴史上どうやって掘られたかわからない、砂香にある巨大な穴が源泉とされている。
その源泉沿いにフランを走らせる。声の大きさ、方角からいって、そんなに遠くはないはずだ。
――――しかし、見渡す限り動く影など見当たらない。
(気のせいだったのか……)
しかし、失望と落胆を感じた直後、源泉の中に黒い塊が落ちていることに気づいた。
太陽の光が強いこの地に、光を吸収する黒い物体はあまりにも不自然であり、異様であった。
(どうしてこんなところに……)
近づくにつれ、その形が鮮明になってくる。
そして思わず、胸が高鳴った。
「人だ……!」
黒い布を被り、人の形に盛り上がる塊が枯れた大地に倒れている。
(子供……?)
その身体は小さく、僅かに見える手は、恐ろしく白い。
「ギル!!」
遠くで走る男を呼ぶ。
(水神だ……)
まだ確信は持てないとわかっていた。
けれどこの時、この状況で出会ったこの人物こそが、水神であるのと――――そう思ったのだ。
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