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024 食事
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謁見室の隣の応接間、そこの長テーブルに食べきれないほどの料理が並べられていた。
謁見の最中に意識を失ってしまったイズミに慌てたが、思いの外早く意識は戻ったようだった。
傷ついた身体はある程度直してあるのなら、倒れる原因など空腹しかありえないだろうとギルトは言う。
それで謁見はその場で打ち切られ、すぐ食事の用意をすることになったのだが……。
「まさかハリルも一緒に食うとは思わなかったな」
ぼそりとギルトが耳打ちをする。
それに関しては俺も同意見だった。
謁見のあと、すぐイズミに食事をさせようとなった直後、国王自らも参加すると言ってきたのだ。
「水神様は朧の生き血すら受け入れられませんでした。最初のお食事はお好みを選ぶので時間がかかると思いますが……」
そうハリルに告げたのに、当然のように同席してきたのだ。
国王の意思は無下にすることもできない。
いくらハリルとの旧友で、尚且つ騎士団長といえど、祭事以外で国王と食事をするなど普段では絶対にあり得ない。
最も、水神であるイズミはハリルと同等の立場になるのだから例外ではある。
それでも何を食べるかわかるようになってからだって遅くはないはずだろう。
目の前の食卓は既にいっぱいだというのに、それでも次から次へと料理が運ばれてくる。
事前に色々な料理を出してくれと料理長に頼んであったのだが、料理人たちもかなり気合いを入れているらしい。
初めて水神様に食事を出す……ということだけではない。
その席に国王が同席しているのだ。
もし国王の目の前で、食事が全てイズミの口に合わなかったら……それは暇を出されるほどの一大事だろう。
だが……残念ながら、運ばれる料理を見てイズミの顔はどんどん青ざめていく。
「イズミ、何か食べたいものはある……?」
言葉を解さないとわかっているが、ゆっくりと語りかける。
『お肉は食べられないの……』
不安そうに答えてくるイズミの言葉もまた、今まで同様俺たちには理解できなかった。
イズミは目の前のグラスに妖獣の生き血が注がれると、明らかに嫌悪の表情で拒否をした。
(やはりだめか……)
飲む以前に、直視することもイズミは嫌がった。
「すまないが、これは下げてくれ」
給餌に対応していた女官も、目に見えて青ざめてしまったイズミのことを心配しているのだろう。
やむを得なく代わりのグラスに透明な酒を注ぐと、今度は先程とは打って変わり、イズミの目がキラリと輝いた。
――思わず、笑みが溢れる。
その光景を見ていた一同が息を飲むほど、イズミは明るい表情になったのだ。
まさかこの少年は、酒が好きだというのだろうか。
ギルトもそれを見て、声を出して笑っていた。
グラスに酒を入れ終わると乾杯となる。
イズミにグラスを渡すと、嬉しそうにそれを飲もうとした。
「あ、まって、イズミ!」
『え……?』
慌ててそれを制止すると、泣きそうな目で見つめられる。
国王が同席している以上、国王の合図なしで食事は始められないのだ。
「ハリル、早くしろよ。水神様がお待ちだぞ」
ここぞとばかりにギルトが国王に文句を言った。
グラスを持ち全員で起立をする。
乾杯するとわかったのか、イズミが恥ずかしそうに笑った。
可愛らしい……と、恐らくここにいる全員が思っていただろう。
「水神と、我が国リースリンドに乾杯」
国王がグラスを掲げ、口に運び傾ける。
それを見たイズミも、一気に酒を口に入れた。
我々には一口で飲むのには充分な量だか、小さいイズミには少し量が多かったのかもしれない。
『ウェ……ゲホッ!!』
案の定、イズミは見事に蒸せ返る。
『お水かと思ったら、お酒だった』
凄く残念そうに言うイズミを見れば、言葉がわからずとも酒が口に合わなかったことがわかった。
和やかな笑いが溢れる。
普段表情をあまり変えない国王ですら、微笑ましい光景に目元が緩んでいた。
談笑を着席の合図とし、一同が席に座る。
ギルトもイズミの椅子を引き寄せ、座らせた。
そこから、イズミの両隣にいる俺とギルトで皿にひたすら料理を取り分け、イズミの好みを見つける作業に入った。
最初は悉く拒絶され続けていたが、直ぐにその傾向がわかってくる。
イズミは、明らかに肉とわかるものは、皿に乗せることすら拒否をするようだ。
少年が食べるものは、味気のない野菜や付け合せの飾りばかり。
調理法ではなく、食材に拘りがあるらしい。
「わかんねーなぁ……肉嫌いなのか?」
イズミが省いた肉料理を食べながら、ギルトが不思議そうに尋ねるが、意味を理解しないイズミもまた不思議そうに首を傾げている。
「こんな葉っぱばっか食って……」
それでも自分の皿の飾りをイズミの器に乗せながらギルトは心配そうに言った。
そんなイズミが特に好んで食べたのは果物だった。
一口サイズの赤い果実を次から次へと頬張る。
『甘い! トマトみたい!』
イズミが食べるそれは本来喉を潤すのが目的の物だった。
果実の中でも比較的良心的な味のものだが……好んで食べる者はまずいない。
結局イズミは、それで腹を満たしたようだった。
『お腹いっぱい! ご馳走様でした!』
イズミが満足そうな表情を迎えたことで、食事会は終了となった。
イズミはほとんど食べていないように思われたが、辛そうにお腹をさすっていた。
「腹一杯になったか?」
ギルトがイズミの頭を撫でる。
されるがままになっているイズミは、また少し気まずそうに笑った。
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