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089 来客
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「何故、ヴァン様がここに……」
水神の部屋から出てきたのは、思いがけない人物だった。
王の従兄弟であるヴァンのことは、披露会に招待していた。
しかし到着は明日のはずだったのだ。
「ああ、ジーナ殿! お久しぶりです」
何事もないように、ヴァンは挨拶をしてくる。
「お久しぶりですヴァン様。ご到着は明日と伺っておりました。お出迎えできなくて申し訳こざいません」
一応型通りに挨拶は返したが……出てきた部屋が悪い。
(よりにもよって、何故水神の部屋から……)
彼の到着が私の耳に入っていないことを踏まえても、まだ王にこの部屋に入る許可を得てはいないはずだ。
王の意思は確認しなくともわかる。
この男と水神である少年を、二人きりで会う許可を王が下すはずがない。
「ヴァン様がいらっしゃるのであれば、城内の者皆で盛大に出迎え致しましたのに……」
「いえいえ、ジーナ殿。私も水神様が気になり、思わず一日繰り上げて来てしまいました」
カラカラとヴァンは笑う。
久々に見たその笑顔は、外面的には人が良さそうに見えて、けれど何か悪戯をしかけた時にする笑顔だとよく知っていた。
(このクソ坊主……)
この職に就く前、学院で世話をしていたかつての教え子の――昔から色々と引っ掻き回す悪い癖は、いつまで経っても治っていないらしい。
「王はまだ披露会の準備ですか?」
王はまだ――と言うことは、そのことを知っていて、敢えて水神の部屋に来ていたのだろう。
「はい。今は本館謁見塔にいらっしゃいます」
眉間に皺が寄るのを必死に堪える。
水神の部屋は強力な結界が張られている筈だった。
結界を通る許可を得てるのは限られた人物だけだ。
いくら王の親族とはいえ、許可を得ていない彼が簡単に扉を開くことはできない。
――恐らく、無理矢理こじ開けたのだろう。
「それで、ヴァン様は水神様とお会いに?」
「……ええ。水神様、お綺麗な方てすね。噂には聞いておりましたが、想像以上でした」
そう語るヴァンの目が、悪戯っぽく細められる。
(ああ……勘弁してくれ……)
「まさかと思いますが……触れてはいないですよね……?」
「ああ、まずかったですか?」
「………」
――――やはり。
これは王に報告しなければならないだろう。
「水神様は、陛下にとっても特別な方です。軽率な行動は控えてください」
ヴァンに軽く会釈をして、水神の部屋の扉に手をかけようとした、その時――――
「なぁジーナ、シトって知ってる?」
敬語を使わずに普段の口調でヴァンが話す。
その口ぶりは、何か重要な秘密を持った子供のようだった。
「シト……とは?」
「水神様、気をつけたほうがいいよ。多分何か隠してる」
悪ガキらしい笑いを込めて、ヴァンはそう言い切る。
「じゃあ、ハリルに挨拶してくるから」
(シト……?)
後ろ姿を見送りながら、ヴァンが口にした言葉を反復する。
とはいっても、そう簡単にヴァンの言葉を鵜呑みにすることはできない。
(シトとは、一体……)
疑問には思ったが、深くは考えない事にした。
今考えたとしても、どうせあとで、全て陛下に報告するのだから……。
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