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卒業式が行われる
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人生最後の卒業式は何ともそっけないものとなった。
ただ自分たちが見送られる側になっただけで式の形状は変わらない。下級生たちのサプライズも先生方からの涙の送別もない。
僕たちが1年前に無感動に終わらせたものと似たり寄ったりだ。
それを咎める気もないし怒る気もない。ただ彼らは通例どおりの順序を繰り返しただけだ。なにも違反はしていない。普通のことを淡々とやっている。とくに悪いことはしていないのに責められる理由もないだろう。ケチをつける気は毛頭にないが。
「―――彼方」
名前を呼ばれた。ボーっとしてたから名字の部分を聞き逃しちゃったじゃないか。
「はい」
慌てないように落ち着いて返事をして腰を上げる。ゆったりとした動作で壇上にあがり、無表情の校長から卒業証書を授与してもらった。
「君の未来に幸あれ」
誰にでもいえそうなセリフをノートーンで告げられ、僕は深々と頭を下げる。感謝もなにもないのだが下げるだけなら金はかからない。
ただ残念なことに僕の未来に幸なんてないよ。
壇上から生徒たちを眺める。どいつもこいつも退屈そうな顔をしている。僕が卒業することなどどうでもいいみたいだ。
所詮うわべだけの付き合いだったということ。それでも表で僕と仲よくしてくれたことを光栄に思う。
駆け足で壇上から降り、僕は教師席に目を向けた。
一つだけ。一つだけぽっかりあいた空席に目が吸い寄せられる。
そこにいたはずの人が、僕の未来だったんだ。
心臓が涙にぬれて溺れそうになりながら静かに席に戻った。
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