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if 自力脱出~Not R18二次創作戦国BASARA片倉
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齢二十五にもならぬ俺だが、やつとの付き合いは二十年に近い。
俺を隻眼にはしたが、心を救ってくれた男。
初陣では、逸りすぎた俺を守り抜き、織田戦では引き際を諭され、いつも俺の背(せな)と、右側を守ってくれていた男。
名は片倉小十郎。
今はもういない…
最初は拐(かどわ)かされたのだとばかり思っていた。
里人を人質に取られ、仕方なく。
だが、竹中半兵衛は、わざわざ俺の前に現れてこう言ったのだ。
片倉君は承知してくれたよ。
豊臣の世をともに生きると。
年若い、愚かな領主のお守りはうんざりだとね。
信じなかった。
自ら去ったとしてでさえ、小十郎はそんな言い方をする男ではない。
だが、葦名、大内、南部のいちどきの蜂起。
豊臣秀吉自身による、俺への直接攻撃。
偽武田軍との戦闘。
長會我部兵合流後に起きた、松永久秀による連続爆破攻撃…
いかに竹中が策士だとしても、一人の力だけで、こうも次々俺を狙えるものだろうか。
俺たちが、やつを信じて走れば走るほど、伊達軍は傷つき、疲れ、弱っていく。
このままでは、俺は配下を、領民を、この手で守りきれなくなる…
「そいつ、あんたの右目なんだろ」
出し抜けに、元親が口を挟んだ。
「自分の右目を信じられねえのは、ちょいと情けなくねえかい?」
「自分の…ならな」
と、俺はいささか情けない声になる。
「この右目は特別な右目でな、単独でも、千人力の働きをしやがる。そんなやつが俺以外のやつのために働きたいと決めたんなら、俺には阻める自信が…」
「かーっ! 情けねえ! これが今売り出しの、奥州の独眼竜かよ!」
元親のもの言いは、まるきり吐き捨てるような口調になった。
「俺にそんな見事な、重宝な左目があったらよ、俺あ絶対疑わねえ。信じて信じてとことん信じ抜く」
逆隻眼の男は、射るように俺を見た。
「それが海賊の流儀ってもんだ」
たった一つの瞳は水色。
鬼と呼ばれる海賊は、澄みきった瞳で笑う。
「海賊の流儀か…」
と。
隊列後方から、ざわめきが上がってきた。
ざわっ。
ざわざわざわっ。
ざわざわざわざわざわっ。
「筆頭!」
「片倉様だ!」
見事な栗毛を乗りこなす、その姿が近づいてくる。
片倉小十郎。
俺だけの右目…
「政宗様」
「何も言うな」
絞り出すような声になってしまった俺を、隻眼の海賊がニヤニヤと見ている。
からかわれるのは覚悟の上だ。
俺は続けた。
「よく戻った」
小十郎がかすかに頭(かしら)を下げる。
良直らが、洟を啜った。
小十郎が戻って後は、すべてがトントン拍子に進んだ。
小十郎は竹中を倒し、俺は秀吉を倒した。
新しい戦いがまた始まる。
俺と小十郎はともに戦い、今度こそ天下を…
「狙いたかったな。てめえと」
二人きり、いつもの濡れ縁で、水入らずで酒酌み交わす。
その約束で隊列を離れ、伊達屋敷に戻る道すがら、俺は小十郎の馬を数歩先行させ、背中に向かって話しかけている。
「は?」
「天下取っても一人じゃ虚しい。ともに生きる者がいなければ意味がない」
「…」
「そう言ったのはてめえじゃねえか。何で俺を一人にする」
小十郎の背中は答えない。
長らく無言でいた。
そして再び口を開いた時、やつは思わぬ真実を語ったのだ。
「この小十郎にも、小十郎の野心が潜んでございました」
「あの秀吉、俺が倒した秀吉は替え玉だったんだな?」
「ご明察。さすがは政宗様であらせられる」
小十郎は静かに馬を下り、すらりと黒龍を抜き放った。
「この小十郎に奥州を下さりませ。そして副官としてともに」
「そいつは出来ねえ」
俺も馬を下り身構える。
「俺には腹心の部下がいてな、俺はいつも天辺でいろって言われ続けてきたんだ。下にはつけねえ」
愛する男めがけて、俺は六爪を抜き放った。
戦いは熾烈を極めたが、俺の勝利で終わった。
それでこそ政宗様。
そう言って、笑って、小十郎は事切れた。
*
世をたばかって生き延び、再起せんとした豊臣の策は成らず、結局天下は徳川のものとなった。
豊臣と、それを継ごうと目論んだ者たちを排除しきった功績により、奥州は今もお構いなしだ。
一国一城の太平の世に、二城許されてある奥州…
だがそこに、俺とともに生きる男はもういない。
空の城の名は白石城。
かつて小十郎に預けた城。
やつの倅に預ける時期を、俺はひたすら待っている。
倅の通り名も小十郎。
あのうちの嫡男は、代々必ず小十郎だからな。
俺にはまだ、その名が呼べねえ。
多分一生呼べねえままだろう。
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