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ウサギとカメ2
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「おやおや、また来たのかい?」
亀太郎はウサギ族の長の息子のところへ会いに来ていた。
妹のことを諦めてもらうよう、毎日のように亀太郎はウサギ族の所へ通っていた。
「お願いだ。そっちの条件を変えてくれ、頼む」
土下座をする亀太郎を、ウサギ族の長の息子、ラビは面白そうに眺めていた。
ラビは嫌みなほどの美麗を持ち、銀色の髪と真紅の瞳は妖の類いを思わせた。
退屈そうに唇を尖らせ、のんびりと優雅な仕草でラビは自分の爪を見ていた。
「そうはいってもねぇ。はい分かりました、で済む話でもないだろう?」
結婚式の準備は明日からだ。
この時までに何度も亀太郎は足を運んでいたのに。
ラビはウサギ族同士で話し合ってくれなかったのだろうか。
訳がわからず亀太郎は顔を挙げ、すがるような目をラビに向けた。
「・・・・・・っ、なんで!」
おろおろとした表情をする亀太郎とは対象的に、ラビはおっとりとしていて、口角が上がったままだ。
「・・・・・・なんで?
愚問だね、そんなの―――――」
ラビはゆっくり椅子から立ち上がると、亀太郎の側へ行き、確認しながらも誘うように頬や唇をなぞった。
まるで結婚の話なんてどうでもいいといった感じだ。
亀太郎は、ラビの手袋越しに伝わる指の熱に、思わずぞくりとした自分の身体に頬を染めたが、同時に身体が強張って動けなくなっていることに気づいた。
鼻が触れ合いそうになるほど顔を近づけられ、何をされるのかと身構えると、ラビは楽しそうに目を細めた。
「結婚した方が面白そうだからに決まってるじゃん」
「面白そう・・・・・・?」
そんな理由で本当に結婚をするつもりなのか、亀太郎には全く分からなかった。
妹と“ただのお遊び”のような感覚で結婚するつもりなのか。
亀太郎はこの男の心理が読めない。
「僕、一度カメ族の身体を味わってみたかったんだよね」
ラビの言葉に、身体の熱がさあっ、と下がるのを感じた。
嫌な予感が確信に変わった。
亀太郎には、ラビの言葉の残忍さが信じられなかった。
ラビの物言いだと、結婚相手をまるでダッチワイフかなにかとでも思っている言い方だ。
どうしたらいい?
どうしたらこの男から妹を守れる?
普段使わない小さな頭を必死に動かすが、焦りだけが先走り、なにもいい案が思いつかない。
ラビはみるみる青ざめていく亀太郎を愉快げに見下ろし、反論が来るのを待っていたが、やがてつまらなさそうに再び椅子に腰かけた。
「今日はここまでかな?またいつでも来るといいよ、亀太郎さん」
「まっ、待ってくれ!もう時間がっ」
「ないね。明日から本格的な準備が始まるから、僕も忙しくなるし・・・。
もう会えないかも?」
「そ、そんなのダメだっ!」
亀太郎は嗚咽をこらえながら額を床に擦り付けた。
妹の顔が脳裏にちらついた。
「お願いだ・・・・助けてくれ・・・」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔も拭わない亀太郎は、とても王子らしいとは言えなかった。
ラビは亀太郎の一生懸命な様子にわずかに動揺したが、頭を下げている亀太郎には気づかれなかった。
ラビは右耳のイヤリングを弄り、少し思案したあと、ラビは口を開いた。
「じゃあさ、競争しようよ亀太郎さん」
「・・・・・・え?」
「僕の領地にある、一際大きな山があるだろう?その山の頂上にある祠の戸口を開けると、結婚式に使う紅玉が供えてある。
きっとそれを壊せば僕と妹君は結婚出来なくなると思うんだ」
話を呑み込むのに時間がかかった。
要するに、先に山のてっぺんに行けば、妹は結婚しなくて済むということだ。
「で、でも・・・オレ足が遅くて」
「そう、それなら僕がさっさと山に行って紅玉を持って帰るだけだね」
「そ、そんなことしたら妹が結婚しちゃう・・・」
「そうだね」
「・・・・・・ダメだ、そんなの」
亀太郎は首をふるふると横にふり、決断した。
「分かった。・・・オレ、やる」
涙を拭うと、亀太郎は挑むようにラビを見つめるのだった。
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