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#61
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「━━━━━━光は俺のことを、どう思ってるんだよ…。」
振り絞って出した声は、震えていた。
でも、光はそんな俺とは真逆だった。
光は驚いていた。
「…………………え……。……………お前、わかんねぇの…………?」
「………………………うん……。」
俺の素直な返事で、光の驚いていた顔が一瞬にして砕け散った。
絶望とは言えないがそれに近い、悲しみと諦め、悔しさが混ざったような表情を見せた。
「……ははっ……、何でって、お前………、っつ……。」
くしゃっと前髪を掴み、俺から視線を逸らす。
口から漏らす吐息を震わせ、歯を噛み締める。
そんな光を見て、俺はやっと気付いた。
…………………俺、バカだ……。
……………最低だ、俺………。
「……いいよ、言ってやんよ……………。」
…ま、待て、違う……、違う……………ッッ!
…………言わなくていいよ……、言わないで……………。
…………………泣かないで……………。
フワッ…
「━━━━━━━━………俺自身が、お前のことを好きだからだよ…。」
「………………………………こ、…ぅ………?」
泣くと思わせた表情は、言葉を言う前に笑顔に変わった。
……こんな笑顔、見たことなかった。
今まで優と一緒にいても、光だった優と一緒にいても、こんな笑顔は見たことがなかった。
…………こんなに、優しい笑顔を知らない。
曇りのない優しく澄んだ瞳が目尻を下げ、整った唇の口角をクイッと上げ、優しく笑った。
…………どうして笑うんだよ………。
…………………今、俺の言葉を聞いて、泣きそうな顔したくせに…!
「…………………光、俺…………、」
「……さて、そろそろ店出るか。…長居しすぎても店に迷惑だからな。」
俺の言葉を敢えて遮るように言う光。
まるで、俺の言葉を聞きたくないというように。
笑っている笑顔が、明るく言う言葉が…。
今の光の全てが、心の中で思っていることの正反対にしか思えない。
光が、無理をしているというふうにしか思えない。
「ま、待って…、光、俺…ッ!」
「あー、会計は俺がしとくから、先に帰っていいよ?」
「…だから、…聞けってばッ!」
「………何を?」
「……えっ………、んと…………。」
やっと俺の言葉を聞いてくれたと思ったが、さっきの光の答えのせいで頭の中がパニックになってしまい、言葉が見つからない。
…………何が言いたいんだろう…。
…でも、このまま帰ったらダメな気がする…ッ!
………何か、何か言わなきゃ…ッ!
そう思っていると、頭の上に光の大きな手が置かれた。
そして、乗せられた手で、俺の頭を撫でた。
「……落ち着け…。変な顔してるぞ?…………疲れてるんだよ。………今日はもう帰れよ。…金は払っててやるからさ。」
「でもっ、それは申し訳ないって…!」
「……じゃあ今度、前に借りてたのを返すって言って、優に金を返してくれればいいよ。…この金も、結局は優の金だしよ。」
「そういう問題じゃない…!」
「………じゃあ何?」
「……………………光は…?…………………光は、どうなるんだ…?」
…………違う…、そんなことじゃない。
……………どうして…、言葉に出来ない………!
「…………だからさ…、…お前疲れてるんだってば。今日いっぱい話したり聞いたりしたから、まだ頭ついてきてないんだろ?ムリすんなって、休めよ。」
頭に置かれていた手が、俺の背中まで下がり、ゆっくりと背中を部屋の通路に向かって押した。
俺は光の手に押されるようにして、通路へ出た。
「…………じゃあな、武博…。」
「………こ、…………光…。
「………………………さよなら………。」
パタン
最後に俺に見せたのは、光の優しい笑顔だった。
背中を押されて通路に出ると、光は部屋の扉を閉めた。
パタンという無機質な音が、俺にはとても寂しく思えた。
少し強制的に部屋を追い出されてしまい、俺は仕方なく靴を履いた。
靴を履き終え、歩き出そうとしたとき。
……………………違う…。
…………こんなの、よくない。
………………………………このまま光と別れたら、ダメだ…!
俺が言いたいのは…!
やっと、俺は光に何て言ったらいいのかわかった。
わかったよ…、光、俺………、やっとわかった…!
……………光………ッッッ!
俺は光のいる部屋の扉に手を掛け、すぐそこにいる光へ自分の今の気持ちを伝える為に、扉を開けようとした。
…でも。
…………………出来なかった。
開けようとした手が動かなくなった。
力が抜けていった。
「…………っ…、ぅう…ッッ…。」
……………………光…………?
「…っはぁ、…うぅ、………うぅあぁ…!」
光がこの部屋の中で泣いている。
光が声を押し殺して泣く声、静かに鼻を啜る音が聞こえた。
………光、泣いてる…………?
そのとき、俺は光の心をとても傷つけたことに気付いた。
俺は光の心を、気持ちをズタズタに引き裂いてしまった。
扉が閉まっているから、光の顔なんて見えない。
でも、とても悲しそうで苦しそうな泣き声が、この薄い扉の向こうから聞こえてくる。
「…………っ、…………っうぅ…!……ろ、……ぁけ……………ろぉ…ッッ!」
………光…。…光………、泣かないでくれよ………。
…そんなに悲しそうに…………、
「━━━━━━━…っ武博ぉ……。……っうぅっ、……好きだよぉ…ッッ!!!」
「━━━━━━━━━━━━ッッッ。」
…………ダメだ…、もう、ムリだ……………!
俺はしがみついていた扉から離れ、全速力で走って店を出た。
足が震えてまともに走れない。
前が霞んでよく見えない。
体に冷たい雫が当たる。
……………雨だ…。
…………あのときと、同じ…。
………………俺が、初めて光のことを聞いた日と同じだ…。
俺は頭から大粒の雫を被り、目からもそれに負けないくらい大粒の雫を溢しながら走った。
走って、走って、走って辿り着いたのは、駅から少し外れにある 大きな橋だった。
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