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#74
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香織さんのその言葉に俺は力強く頷き、電話を切った。
電話を切ってからの俺は、今までの不安や迷いを全て吹き飛ばしたような気分がしていた。
全て優と光の為を思う気持ちが、俺を動かしていた。
…………俺が不安じゃいけない。
…俺が泣いていたらいけないんだ。
そして、あいつらの停学が終わるまでの期間がとても早く感じた。
優が停学が終わり、学校に帰ってきたのは…。
……冬休み前最後の日、終業式の日だった…。
朝から優の機嫌が悪いことは隣にいなくても、周りを取り巻くオーラから十分過ぎるくらい伝わってきていた。
理由もとても簡単。
……何で自分が今まで停学になっていたのかわからなかったからだ。
香織さんの言った通り、光は優が停学になってからは1度も優の体から離れなかった。この1週間、ずっと現れ続けていたのだ。
優に停学を知られたくなくて、隠していたのだろう。
優は、気付いたら自分の1週間分の記憶が全て抜け落ち、日にちがいつの間にか7日分も進んでいたのだ。
そして、誰にこのことを聞いてもみんながはっきりとした答えを出さず、はぐらかすように受け答えをしていた。
優はそれにイラつき、周りに近寄るなオーラを放っていた。
…ある意味、こんな状態の優を見るのは初めてなように感じた。
それでも、俺は優に声を掛けた。
「……優……。」
「…あぁ…?」
「…………ちょっと、香織さんに用があるんだ。……放課後、優の家に行ってもいいか?」
終業式は午前中で終わり、午後はLHRと清掃をして放課になった。
優たちサッカー部も今日は部活がないらしく、俺は優と一緒に優の家へ向かった。
優の家までの道程では、もうすぐ冬休みだなという呑気な話を繰り返していた。
でも実際に頭で考えているのは、そんな呑気なことではない。
呑気とは正反対の言葉でしか表せない感情。
焦り、不安、恐怖…。
それらが全て入り交じったような感覚に、俺は酔ってしまいそうだった。
それでも、俺は隣にいる優の顔を見た。
…俺は、この笑顔をもっと良いものにしてやりたい。
ただその一心で、前へ歩き続けた。
優の家に着くと、香織さんが出迎えてくれた。
優は驚いた顔をしていたが、俺と香織さんは計画通りにいけそうだ、とアイコンタクトを送っていた。
香織さんは、敢えてリビングに座った。
そして、優は俺に香織さんとの用事を済ますように促される。
でも俺は敢えて香織さんの隣に座り、2人で優を正面にした。
優は案の定驚いていた。
優は、俺は香織さんに用があると思っていたのだから。俺が香織さんの隣に座り、自分を正面にすることなんておかしいと思っているはずだ。
…でも、これでいいんだ。
「…………優…。……座ってくれ、話があるんだ。」
俺は握り拳を震わせながら優の瞳を見つめた。
……大丈夫だ、今は"優"のままだ。
「…優…。私たちからあんたに話したいことがあるの。……聞いて欲しい。」
香織さんが言う。すると、優は渋々俺たちの正面に座った。
そして、優の口からは優の気持ちを全面に表す言葉や震えが漏れていた。
「……な、なぁ…。……なんか、すんげー嫌な感じがするんだけど…。……それって、俺にとっていい話なの…?」
どう見ても怖がっている優に、香織さんは以前俺に優と光のことを話したときに言ったような言葉を言った。
「…それは聞いたあんたが決めることよ。…私も武博君も、ただあんたたちのことを助けたいだけなの…。 」
「…………優……。………お願いだから、今の"優"のままで話を聞いて欲しい…!」
…俺があのとき味わった不安や混乱、恐怖を今度は優自身が味わうときだ。
その真実がいかに残酷なのかを、俺も香織さんも知っている。
…でも、残酷だからこそ話さなくてはいけないこともある。
知っていなければいけないことも、あるんだ。
………傷付くことは、重々承知だ。
でも、傷付いてからでなければ優の本当の幸せは訪れない。
優は今から俺たちが言う真実を受け止める辛さ。
俺たちは優に真実を話さなければいけない辛さ。
お互いが辛さを味わいながら、前に進むしかない。
………俺はその決意を胸に、優に一文字ずつ言葉を紡いだ。
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