アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
#77
-
━━━━━━好きじゃなかった…?
………そんなことない。
…………好きだ…。………今も、これからも…。
………それなのに、俺は優の気持ちをわかってやれなかった…。
「………………武博君…。………もしかして、自分のこと、責めてる…?」
何も言えなかった。
………本音をつかれたから。
首を振ることさえも出来ない。
ただ、おかしな笑みだけが零れた。
「………は、…はは…。………何で、俺…あんなこと…。………ははは…、何なんだよ、ほんと…。」
込み上げてくるのは笑い。でも瞼が熱い。
俺は床を見つめていた目を閉じ、垂れている前髪を思い切り掴んだ。
歯を食い縛り、溢れ出そうな涙と声を必死に堪えた。
焼けそうに痛む喉が、俺の限界を告げるようだった。
………わかってたのに。見えていたのに…。
本当は、話しているときに優がだんだんと苦しそうに息を荒くさせ、頭を押さえているのにちゃんと気付いていた。
優が俺に向かって、やめてって言っているのを、俺はこの耳でちゃんと聞いていた。
それなのに、話す口を止められなかった。
優たちのことをちゃんと思っての行動をしていたはずなのに、それが逆に優を苦しめていた。
「………俺が…。………何で俺、あのとき………。…俺のせいで………。」
それを口にした途端、モノクロだった世界から現実に引き戻された感じがした。
目の前が色づきを見せ、これが現実だということを思い知らされる。
俺のせいで優が倒れてしまったんだと思い知らされる。
俺のせいだと、確信した。
「………違うよ、泣かないで…。」
香織さんが、俺の腕を掴んだ。
「…………何が違うんですか…。………俺があんな話なんてしなかったら、こんなことにならなかったのに…。…優の声も聞こえてたのに、そんなこと気にしないで話し続けて優のことを苦しめて…。…………そんなことしちゃった俺のせいじゃないなら、何で優はこんなことになったんですか…。」
「……今は誰のせいかなんてどうでもいい。…話すように武博君に言ったのは私よ。…武博君が悪いだけじゃない。」
香織さんは掴んだ俺の腕を自分へ引き寄せ、俺の頭を撫でた。
「………………大丈夫…、大丈夫だから…………。………ごめんね、ありがとう…。」
涙で視界がぼやける中、頭の上から優しく降りてくる香織さんの言葉だけが、はっきりと俺の耳に届き、残り続けた。
その後、俺は香織さんにもう帰るように促され、重い足取りで家への道を歩いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
79 / 162