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苦色の章9
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愉しげに歩道橋の階段を駆け登った早川カイリことアリスの息は乱れない。小鳥を追いかけている時が一番ドキドキする。
今日は雛を観察するつもりだった。
この歩道橋は殆ど誰も通らない。昔はどうだったか知らないが、田舎だし広めの車道とはいえ車通りも疎ら。道路を横断する方が楽だしいいに決まってる。誰もわざわざ辛い思いをして登らないのだ。街路樹があって伸びに伸び放題だから、下の道を歩く人間からは丁度見えないし、枝葉に隠れて上から雛を観察する事が出来る良い場所だ。
そろそろ下校している筈だったが雛がやって来ないので、遠くまで見ようと橋の中程まできて欄干にもたれかかり頬杖をついた。学校で何かあったのか。友達もいない、部活もやってない、覚せい剤の中毒で両親も死んでしまって、いつも一人の可哀想な雛。今は施設にいるけど、雛を育てるのは私の役目なのだと自負している。その準備の為に海外で仕事をしている親に一軒家を借りてもらったのだ。
リフォームして貰って広くて綺麗だし、隣家とは離れている最適な飼育場所。想像するだけでワクワクした。
アリスがあの個人経営の診療所を見付けたのは偶然だった。深夜眠れなくてネットサーフィンしていた時、彼女の診療所のサイトを見付けたのだ。
日蝕の壁紙。真っ黒な背景、中央に月の影が落ち焔の指輪のように見える太陽。そのリングの中央に
【ヤヌスの部屋】
本当の貴方と貴女がわかる場所
Enter
とあった。
軽い気持ちでEnterキーを押し、中を覗いた。
そしてこのサイトの管理人がこの街の診療所の女医だとわかったのだ。
彼女の治療やカウンセリングを受けるには条件があった。
この街に住んでいる事、これが絶対条件だ。
彼女は3つの方法で診療する。
対面か、メールか、電話。
メールと電話による相談では薬は処方されない。
薬が欲しければ対面での診療を受けるしかない。
また、対面と電話での相談はメールフォームでまずアポを取らなければならない。メールでの相談は24時間受付ていて、返信は1週間以内らしい。
メールフォームへの入口をクリックした時点でカレンダーが現れて診察可能な日時を表示してくれる親切なシステムだ。
あとはカレンダーをクリックして都合のいい時間に名前を入力するだけ。
こんなんじゃ悪意のある人間から悪戯されるだろうと思ったのだが、メールフォームで名前を書く前にカードかウェブマネー、携帯電話料金支払いで課金されるシステムだと注意書きがあった。
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