アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
久しぶり
-
この屋敷に来て、それまでで恐らく一番心地のいい目覚めだったと思う。
「・・・イチ様?起きられましたか」
「・・・年寄りの部屋にしちゃ線香臭くねぇな、でも何だこの匂い」
「私、匂いには敏感な方でして基本的に部屋の中は無臭を保っております。
今紅茶を入れましたので、恐らくその香りでしょう」
俺は体を起こして周囲を見回した。
部屋の中はアンティーク調の家具で統一されており、燕尾服の三番がその中にティーカップを持って立っているとそれだけで絵になった。
「紅茶似合うなじじ・・・三番」
「恐縮です。イチ様もお飲みになりますか?」
「あー、美味いのか?」
「紅茶は香りを楽しむものですので味に関しては何とも・・・しかしご気分は楽になるかと思いま
す」
「・・・なら、ちょっと飲んでみる」
「少々お待ちください」
三番は戸棚からもう一組ティーカップを取り出すと、なんだかよく分からない円柱状のガラスの容器から紅茶を注いだ。
「自分が飲む分だとどうしてもティーポットに移すのが面倒でして、失礼かとは存じますがご容赦ください」
「・・・入れ物の事言ってんなら安心しろ、それが何かも分からねぇ」
「こちらはティーサーバーと言いまして、本来お客様の前にお出しするのにここから直接注いだりはしません」
俺はそんな説明を右から左に聞き流しながらティーカップに口を付けてみた。
「・・・何っていうか、あれだな。良い匂いの、お茶」
「そのままですね」
自分で言ったことだが、それに対して三番が大真面目に返してきたことが無性におかしく俺は吹き出してしまった。
「あ、床を汚さないでください。匂いには敏感なんですよ」
「おまっ、ふっ、ははっ、ははははっ」
だが更にしかめっ面でそう言われて俺は完全にツボにはまってしまった。
俺が笑い続けていると最初は無表情を貫いていた三番も段々と頬が緩み、「いい加減に落ち着いてください」とかなんとか言いながら最終的には顔を背けて肩を震わせていた。
「はぁ、はぁ、腹筋いてぇ、あー久しぶりに笑った」
「それは・・・左様でございますか」
「んあ?あぁ、ここに来てからじゃねぇよ」
俺は俺の言葉に顔をわずかに歪ませた三番をフォローするように話し始めた。
何故だか、そうしなければならないと、そう思った。
「まぁ何だ、俺の性格ってのがそもそもあんまり人から好かれるようなそれじゃねぇんだよ。
自分の身を守る為なら何でもする、人の意見は聞かねぇ、いざとなったら暴れる。
行き当たりばったりで利己主義の塊。おまけに口もわりぃからな。
飽きっぽくて仕事も続かねぇし、こっちが一線引いて対応するもんだから向こうも距離詰めてこようとしねぇ。
んで、結局バイトばっかり掛け持ちして、何にもねぇ日はずーっと家ん中でぼーっとテレビ見たりマンガ読んだり本読んだりしてたんだ。そりゃあ笑えねぇっつの。
だから、人とまともに話すのも、笑うのも、久しぶりだっつったんだよ」
「・・・申し訳ありません、性格に関しては否定できません」
そう告げる三番の表情は明らかに笑いをこらえている。
「おいてめぇ、部屋の中紅茶の匂いでいっぱいにしてやろうか」
「消臭スプレーは常備してあります」
「・・・俺を逃がす事は出来ねぇのか」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
37 / 72