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殺せない
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「・・・何が、言いたいんです」
「別に。難しい事じゃねぇよ。
ただ、あんたは違ったのかなと。殺したかったのかなと思ってな」
「そんな、訳あるはずがないでしょうっ!たった、たった一人の、おとう、とを、殺し、たいと、思う、わけが」「嘘付け」
面白いほどにきょとんとした顔で三番がこちらを見た。
そして言葉の意味が理解できたのか、その表情が一気に怒りに染まる。
「貴、様っ」
俺は押し倒され三番が馬乗りになって首に手を掛ける。
・・・だが、その手に力が入る事は無かった。
「ほらな、嘘だ」
俺が言っている事の意味が分からなくなってきたのか、怒りに染まっていた三番の顔に迷いが出始める。
「あんたの意思で、殺したんだろ?あんたの手で・・・そう言ってたじゃねぇか、違うのか?
今更一人増えたって変わらねぇだろ、ほら、殺せよ」
三番の目が泳ぐ。
依然として、俺の首は締まらないまま。
「踏ん切りがつかねぇのか?なら俺が代わりに教えてやるよ三番。
あんたが、あんたの弟を、殺したんだ、その手でな」
「・・・違う、私は」「認めろ、面倒くせぇ」
いい加減本気で苛々してきたので、少し口調が荒くなる。
三番の目から涙が零れるがそれには気付いていないのか、俺の事を呆然と見つめている。
「おーい、声聞こえるか?」
「・・・煩い」
三番が感情を抑えつけて、低い声で唸るように言う。
「よし、聞こえてんな。
あのな、あんたがあんたの意思で弟を殺したのは事実だ、これは変わらねぇ。でも」「もう良い充分だっ!・・・そうだ、私が殺したんだ。弟をな、奴隷として扱った挙句にな。これで良いのかっ?満足かっ!?」
「満足だ。やっとあんたが何したかがはっきりした」
殆ど口論みてぇになってるが、ようやく結論に来たな。
「あんたは弟を殺した、紛れもなくあんたの意思でな。
・・・でもそれは間違いなく、あんたの弟の意思でもあったんだろ?」
三番の表情から、怒りが消える。
「あんたはさっき家族を殺したくねぇって言った。
でも、同じくらい、殺さねぇといけねぇって思ったんだ。
もっと言うなら、あんたの弟も殺されてぇと思った。
よっぽど辛かったんだと思う、自分の事殺せなんて、ましてや家族に言えねぇよ普通。
でも、それを強いたのはあんたの意思じゃねえだろ?
それだけは、どうしようもなかったんだろ?
だったら、殺してくれって言われることだって、殺すのだって、辛くねぇ訳ねぇだろうが。
あんただって、辛かったんだろうが」
ひゅっ、と喉が鳴るのが聞こえた。
「なら、あんたの弟がどんだけ辛い思いしたのか、それはあんたが一番よくわかってるはずじゃねーか。
なのに何で知らねぇ振りすんだよ、その方が残酷じゃねぇか。
あんたの弟はそれを知ってたから、あんたに頼んだんだろ?
あんただけが、あんたの弟の味わった辛さを、知ってやれるんだ。
覚えていてやれるんだ。
忘れようとすんなよ、否定すんなよ。
命を懸けた覚悟を、踏みにじんな。
ちゃんと覚えといてやれよ、兄貴、なんだろ?
たった一人のよ」
俺の首に掛けられた手が、震え始める。
でもここに来て、まだ三番は何かを守るかのように、必死に言葉を紡いだ。
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