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葛藤
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「おーっ!ええ部屋やな!」
緑のグラデーションがおい重なる自然溢れる広い敷地。
趣の微妙に違う離れが点在し、旅人を待つ、人気のお宿。
大和は、離れの広縁から手入れされた庭に目を向け、声を上げる。
「本当に、お洒落な旅館だね…………」
旅館選びから予約まで、大和が動いた結果の今。
颯は大和の隣に立ち、大和のセンスにも感心した。
よく晴れた土曜日。
二人は約束通り、一泊二日の旅に出た。
初めての、お泊まり。
嬉しさ一杯の筈が、颯はやや元気なし?
颯の心には、引っ掛かっていた。
海との事。
大和と、旅行に行きたくて海にお願いした事。
海と、初めて関係を持ってしまった。
自分が深みにはまっていきそうで、怖い。
「……………颯?どないしたん?気分でも悪いんか?」
そんな颯に、大和は優しく話しかける。
大和の優しさが、胸を突く。
颯は無言で、大和に抱きついた。
「……………颯……………」
「大和………………俺は、本当に大和を幸せに出来てる?」
「…………………は?」
なんや、それ。
今更、聞く?
この前から、颯の様子がおかしいとは思っていた。
旅行が終わってから、話をしようと考えていたのが、どうやら無理っぽい。
大和は颯の手を握り、広縁の側に置かれたソファに颯を座らせ、目の前にしゃがんだ。
「俺は、お前がおるだけで、充分幸せにしてもろうとる。こんだけ、お前に惚れとる奴に聞くか?そんなん」
颯の質問に、大和は迷いなく答えた。
「………………大和……………だけど、俺…………いつも大和の手を煩わせている。大和に、迷惑かけてばかりだよ」
「迷惑……………?好きな相手の力になってやりとうて動くのに、迷惑やと感じとる訳ないやろ。俺はただ、お前の笑顔が見たい……………それしか頭にない」
旅先に来てまで、こんな空気。
楽しい旅行にしたかったのに、胸につかえるものが溢れ出る。
颯は大和の手を握りしめ、その手に顔を埋めた。
「俺は、最低だね。大和に甘えて、大和に助けられて……………それでも、淳の事も整理ついてない。淳に対しても、最低だ……………皆に、守られてるだけ。皆の気持ちを、あやふやに抱えて、俺の中に留めてる………………………失うのが、怖い。そんな弱い心に、負けてるんだ」
「人は、弱くて当たり前や。相手を大事に思えば思う程、好かれている事に安らぎを持つ。最初から、嫌われてもええ思うて、相手の気持ちを拒める人間なんかおらんわ。ましてや、淳は中身も外身も申し分ないしなぁ…………俺がお前でも、きっと悩む」
そう言って、大和は颯に微笑みかける。
颯が苦しんでる時こそ、余裕のある顔を見せてやりたい。
弱い自分は、死んでも見せたくない。
「………………大和…………でも、海まで…………」
「海………………?海と、何かあったんか?」
海…………………大和にとっても、淳よりはるかに厄介な相手。
手強さがハンパない事位、わかっている。
なんせ、海の颯へ対する溺愛ぶりは、異常だから。
「さ……………最近、前以上に…………愛されてる」
「愛されてる……………?いや、これまでもかなり異常やったけど?…………………なんや、それ超えとる言う事か?」
颯の言葉に、大和は首を捻る。
アレ以上って、どこまでいくねん……………?
「なんて言うか………………大和、みたい」
「俺………………?俺みたいって…………」
俺…………………。
俺は、どんなん?
頬を赤く染め、自分を見てくる颯に、ようやく大和も話が読めてきた。
「え………………まさか、身体…………求めて来るんか?あの、冷徹俺様野郎は……………」
「ご、ごめんなさい…………っ!1回だけ、1回だけ…………………断れなかった…………!」
俺=エロエロ大好き。
もとい、俺=颯の身体大好き。
最悪やんけーっっ!!!
冷徹俺様野郎が、エロエロ&颯の身体大好きに目覚めた言うんかぁー!?
ナメとんな!!
ただでさえ同居して気に入らへん上に、颯の身体…………抱き放題やんか!!!←論点がズレている。
大和は赤い顔の颯を見つめたまま、絶句した。
「い……………1回って、どう言う事や?あいつに、抱かれたんか…………」
「こ、今回の旅行……………許して欲しくて……..……海の希望、聞いた…………………」
「………………はあ?」
大和の顔が、見るからに険しくなる。
旅行と引き換え?
あいつにしては、安っぽいやり方過ぎやろ?
「でも………………ホントは旅行の許可とか、海には関係なかったんだと思う。海は、そんな交換条件出すような人じゃない。わざと、言ったんだ……………俺が、海の前で大和の事を考えてたから。学校帰りに大和の家に寄って、大和に抱かれて………………海との大切な家でも、大和の話をする俺に、海なりに戒めさせた………………」
誰よりもわかる、海の事は。
だって、俺の海だから…………………。
幼い時から、お互い一人しかいなかった。
依存して、支え合って、生きてきた。
異常なのは、俺も同じだ。
俺に、海を責める資格はない。
颯は、周りを苦しめる自分の未熟さに、心が痛くて張り裂けそうだった。
「そんなん、普通やろ。付き合うてんねん、俺らは。お前と海が、どんな関係であろうと、俺には関係ない。人の恋人に手ぇ出して、この俺が黙っとける思うとんか?」
「…………大和…………っ」
「相手が海でも、容赦せえへん」
ホンマ、どいつもこいつも颯ばかり。
飢えとんちゃうぞ!?ボケッ…………!!
「帰る………………」
大和は立ち上がり、荷物を手に持つ。
「か、帰るって……………」
「決まっとるやろ?あいつに…………海に、会いに行くねん」
「え、えぇ………………!?」
慌てて見上げる颯を見下ろし、大和はニヤリと笑う。
「ウジウジ考えるくらいなら、行動するのみや。お前のモヤモヤ、すっきりさせたるわ」
天才でも、ない。
優等生でも、ない。
ヤクザは、ヤクザ。
稀に見る、異端児。
目の前がどんな壁であろうと、ぶち壊すのみ。
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