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秘密の取引
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side フジ
苛々、する。
『波嶋のこと、好きなんでしょ?』
『…俺に、良い考えがあるんだ』
甘いその誘惑に、誘われるがまま、俺は耳を傾けた。何時もの俺なら、冷静に考えればこんな馬鹿らしく思えること、する筈がないのに。
『波嶋が、欲しいんでしょ?』
『だったらさ、協力してあげる』
『……その代わり…』
馬鹿馬鹿しい。
本当に心の底からそう思った。
(…俺に、沖がゆうきを口説くのを黙って指を咥えてみてろって言うのかよ)
『不満なの?』
『…けどさ、鹿目くんがグイグイいったって、結局空回りだってこと、分かってるんでしょ?』
『恋は駆け引き、って言うじゃん?』
『波嶋に、自覚させなきゃ、何も始まらないよ』
んなこと、分かってる。
なんでも、分かった様なお前の口振り、腹が立つ。だけど、本当に図星だから。すげー苛々する。ムカくんだよ。
『悪い取引じゃないと思うんだけど』
『……だって、俺にも鹿目くんにも利益は、あるだろ?』
すっと目を細めて笑う仕草。
計算高くて少し捻くれた様に物事を進めるのを、まるで愉しんでる。
それはまるで、ゲーム感覚で。
駒を操り淡々と進める
何でも思うがまま。
思い通りに意のままに進める。
お前は司令塔だ。
このゲームを支配する。
それ以外の人間は、その盤の上で踊る駒なんだ。…勿論、それは沖も同じ。
沖がどう動くかなんて、手に取るように分かると言いたげだ。踊らせて踊らせて踊り疲れさせて。自分のこの手に堕ちてゆくよう、策略を巡らせて。淡いゆうきへの恋心なんて、計算の内で。どんな残酷な手を使って、その想いをぐちゃぐちゃに汚すのか。
残酷なその行為すらも、綺麗な感情であると、疑わないお前のその笑み。
(ぜってー、理解出来ないタイプの、人間)
「その代わり、俺の条件も呑んでもらう」
俺はあんたのゲームの中では、ただの駒に過ぎないだろうけど。
お互いに、『手に入れたい』と願うのは変わらない。
『取引、成立だね』
一体、何を考えてるのか。
あんたは、何時もの変わらない笑みを浮かべた。最初から、この取引が成立することを疑わないかのように。
「…あんたに好かれるなんて、不憫なやつ」
きっと、一生、放して貰えない。
どんな手を使ってでも、自分の物にしようとする、その執着心。
それは、とても真っ直ぐて純粋さが見え隠れする。けれど、それはとても危うくて、今にも崩れてしまいそうなほど、不安定。
渇きにも似ていた。
水を欲しがる行為と等しい。
『お互い様でしょ』
そう言って松野は、笑った。
そしてあんたは、言ったんだ。
俺と君はとてもよく似ていると。
「似てねぇよ」
「そ?似てると思うけどなぁ」
「お前みたいに、趣味悪くねぇし」
「あははっ、鹿目くん口悪いね」
それはとても奇妙な感覚だった。
胡散臭い筈のこいつの、笑顔が、言葉が、人間味を感じたこと。
…作り物なんかじゃない、本当の素のこいつを見たということ。
そしてあんたは、ゆっくりと深呼吸をし、一息着く。すると、とても穏やかな優しい声色で、それは愛おしいそうに、囁いた。
「…嗚呼、早くあいつを慰めてあげたい」
とてもとても、残酷な言葉なのに。
柔らかく微笑むその表情は、誰かを強く想う綺麗な感情に見えた。
そこに、愛を感じたのは、何故だろうか。
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