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-16- 鳳 清四郎
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日本屈指の大企業である鳳凰グループの子息として生まれ、鳳家の名に恥じぬよう常に誇りと自覚を持って生きてきた。両親からは壮大な期待を掛けられていたし、日本の未来を担う者として当然の理だと思っている。幼い頃から帝王学を学び、実際に父に連れ添って商談の場に立ったこともあった。
鳳家の人間として、あらゆる面で秀でて、トップでいなければならない。そう日頃から厳格な父から言い伝えられている。
そう、あらゆる面でだ。それには勿論、人を魅了することも含まれている。人を魅了出来ない者に数百万の人間が従えることが出来るだろうか。従って、学校では生徒会長の座についた。学校というのは社会の縮図である。それを統治出来ずに鳳凰グループの先頭に立って指揮を取れるはずもない。
また、そういった意味とは別に性の教育もしっかりと教え込まれてきた。はじめては誰であったとかあまり覚えていない。大方、鳳家の使用人だろうが。そこに性別はあまり関係は無かった。女も男も経験して箔がつくものだとお爺様が言っていたのだから。
お爺様は、鳳凰グループの創始者であり数多の従業員を纏め上げトップに登り詰めた敏腕起業家だ。それでいて豪快な性格をしていて非常に頭の良い人間である。ここまで鳳凰グループが大きくなれたのも、お爺様に魅せられた人間が多いからだろう。父もお爺様の背中を追って、日々励んでいるがお爺様の天賦の才には羨望を抱いているはずだ。
そんなお爺様も還暦を過ぎ、体調を崩すことが多くなったこの頃。鳳凰グループの海外進出や、父を筆頭にロサンゼルスに支社を新たに作る話が持ち上がってた矢先、お爺様が倒れたのだ。忙しなくなる社内と、日に日にお爺様の容態は悪化していくばかりで、父の目の下にできた隈も酷い。そろそろ本格的な代替わりだと、数百万にも登る人間の命運を父は背負うことになるのだから重大な事だ。鳳凰グループの継承が父に移るとなると、俺もいつまでも学生気分でいるわけにはいかない。鳳凰グループの次期後継者として、学ぶことが今まで以上にある。それは重々承知の上だった。
「……アメリカの大学、ですか」
「あぁ。予定より少し早くなってしまうが、こうなってしまっては仕方がないだろう。それに早い事には越したことがないからな。向こうには連絡してある」
学校を卒業後、既にアメリカの大学へ進学することが決まっていたが、まさかこんなにも早くなるとは。
返事がすぐに返ってこないことに不審に思ったのだろう、父は俺の肩に手を置くと念押しの言葉を掛ける。
「清四郎、今が大事な時期なんだ。分かってくれるな?」
「……勿論です。父様」
分かっている。何が大事で何を優先するのかぐらい。
安心したように父様は微笑んでいたが、残念ながら微笑み返すほどの余裕は無かった。
お爺様の容態、鳳凰グループを引き継ぐ父、アメリカの大学。
それらは頭の中で浮かんでは飛散した。
代わりに俺の脳内を占めたのは何故か──あのお粗末な犬の顔だった。
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