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「アルビノってのは、日光に当たると死ぬんだってな!」
男はスズヤの髪を乱暴に掴んだと思えば、廊下まで連れてこられ、空いている窓に頭を突っ込ませた。
客はざわめき二人から距離を取る。当たり前だがまわりには謎の空間が生まれ、誰も助けなど来るはずも無い。現在、自身の身を守ってくれる者は自分自身しかいないのだった。
『連中、お前どうやって追っ払ってるんだ?』
リクトに言われた言葉が耳鳴りのように響く。「どうやって」など問われても、襲われた時の対処法など多く無く、限られる。
頭を必死に下げては地べたに這いずるか、相手を這いずらせるか、もしくは捕まらぬように逃げるか。
スズヤは頬につたる血と同じ色で輝く、紅い瞳は必死に睨みを利かせていた。
「さっきからアルビノ、アルビノうるせーし、日光浴びたからってで死ぬ訳無いだろうが!」
掴まれた手を自身の腕に絡ませては追い払う。
これは女性など力の無い者でもできる護身術の一つであり、幼い時から暴力対象であったスズヤが自然と身につけた物。
そしてもう一つ、彼は冷静にまわりを把握でき、状況に合わせて策を考えるのが人より優れていた。
スズヤは追い払ったのち、振り向きざま回転の力を利用し、相手の鼻を一点に狙ってた踵蹴りを入れる。
男はまさか反撃してくるなど想定外、ましてや鼻だけを狙ってきたその行動に身動きできずにいた。無論、スズヤはこの展開を読んでいた。
相手を見下してる時ほど脆い物は無い。
踵がドンと床につき、振動が足首に流れる。
音は響かぬとも、入った感触は靴に伝わり、男の鼻から床にポタリと落ちていく血こそが証拠であろう。
「人って鼻から血がでると息しにくくなるんだよな」
体が弱くとも、人には弱点が多く存在している。軽い力であっても人の骨は簡単に折る事ができる。
そして【普通の人】であれば痛みに弱いものだ。それがどんなに小さな傷であっても、鼻に打撃を食らったとしてもだ。
逆に体が弱くても痛みに強い人間がいれば先手は取られても、案外反撃の余地がある。
スズヤは暴力を受け続けたため、体弱くとも痛みに強い人間であった。逆にその強みを生かし、襲われた時はわざと攻撃をさせ、相手が強気で隙だらけの時に反撃をする戦法はよく使っていた。
この戦法は反撃の強さにより相手に精神的ダメージも与えられる。特に顔を狙えるチャンスあれば尚良し。
精神的ダメージを与えれば相手は焦り、注意力が鈍り、そこで新たな隙が生まれる。逃げられる時が来るまで痛みに耐え、反撃を繰り返す。つまり、「どのように追い払うか」の質問に対しての答えであろう。正確には「どのように逃げているか」であろうが。
勘違いされぬ前に撤回しておこう。
似たような図に出来上がってしまったが、今回の件は意図的にスズヤが作り上げたものでは無く、意味深な言葉に惑わされたスズヤが隙を作ってしまったの間違いである。だが、ことわざには「終わり良ければすべて良し」と言うように、結果的には何ら問題無い。
男は血が止まらぬ鼻を急いで片手で押さえながら、「んの野郎」と眉間にシワを作り上げカッと目を大きく見開く。
そんな子供騙しのような威嚇がスズヤに通用する訳も無く、またギャラリーすら今は男を見ては無い。
正直、一般から見れば男よりも顔一つ歪ませず立っていられるスズヤの方が今は恐ろしいであろう。
先ほどからスズヤは平然と立っているが、肋にヒビ、足首捻挫、頭にたんこぶ、全身打撲は確定。
それに加算して口から頭から血を流しているのだ。普通であれば病院に駆け込むレベルであるが、スズヤは「今日バイトあるのにな」と考え事が出来るほど余裕を見せていた。
「てか、俺を狙って何の得があるってんだか」
そんな彼がふと出てきたのは問。
正直、校門前で待ち伏せした方が効率は良いが、百歩譲って学校の授業中を狙ったのはスズヤを見つける為だと、納得は出来無いが理解は出来る。
だが、問題は何故スズヤを狙ったのかだ。
リクトを潰せば不良に利益はあるが、スズヤを潰した所で男のメリットは何一つ無いように見える。スズヤを狙うぐらいなら幹部一品とっ捕まえた方がダメージだって大きい。
男は甲高い声で喉を鳴らし、笑みを浮かべさせる。
「てめーは、誰の弟か理解して無いようだな。お前を狙え潰し、人質に取れば……」
「あいにく、弟を狙ったからと言って騒ぐような仲では無いんで」
そこまで聞けば先の答えなど聞かずとも理解できる。そんな兄弟ごっこができるほど甘い家庭に産まれた覚えなど無い。
だが、どうやら男はスズヤと異なる意見を持っている様子で、またもやスズヤを謎めく意味深な言葉で惑わしてくる。たった一言ではあるが、それは遠回しに自身を否定する言葉であった。
「そう思ってるのは、てめーだけみたいだけどな」
「はい?」
理解など出来ず、また自身だけと言う意味が伝わら無い。正確には言葉が足り無いのだ。
リクトといい、この男といい不良とは皆、言葉足らずで会話する生き物なのであろうか。
「にしてもだ、体弱いだけのヒヨコかと思っていた奴がここまで肉食だったとは驚いた。落とし前きっちり返させてもらうぞ」
男はスルリと近づいて来ては、スズヤの胸ぐらを持ち上げる。身長が通常より多少小さいスズヤはギリギリ爪先立ち出来る程度で、捻挫を疑う足首がフルフルと震える。持ち上げられたせいで、首が埋もり締まり息を殺され、身動き取れず。
そしてついに男に腕を構えられた時、通常なら殴られる恐怖に溺れるであろう。だがスズヤには恐怖は無く、先ほどから男の後ろに立つ【黒髪の男】が気になって仕方が無い。
やはり、人は頭に血が登れば隙だらけになるもんだなっと実感する。
そんな状況も知らず、勝ちの優越感に浸る他校の男は腕を大きく降りかかった。
無論、それと同時に【黒髪の男】がその腕を掴みとり、顔面に向かって殴りかかった事は言うまでもあるまい。
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