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マナブは「やーん、この兄弟怖いわー食われちゃう」とか気色の悪い声を出すもんだから、スズヤは舌打ちをし、リクトなんて鉄パイプを構えはじめる有様。
「ちょっ…待て待て、冗談キツイって! お前の攻撃もろ食らったらっ!」
「病院送り決定だな」
「鉄パイプ振り回しながら言うんじゃ無い!」
なんなんだ、この茶番はと観客席にいるスズヤは二人から目線を逃す。逃した先は窓に当たり、そこから外の景色を眺める。晴れであれば外を眺めて時間が潰せたが、あいにく今日は雨。
「はやく話し続けてくれない?」
長引くこの空間に、しびれを切らしたスズヤは、逃げ回るマナブと鉄パイプを振り回す二人を冷たい眼差しで見つめ、何度目かわからぬため息をこぼした。
※
「えっと、何処まで話したっけ?」
茶番も終わり、停止していた話しがようやく進む。
スズヤは体が弱く、普段の生活でも疲労が溜まりやすいというのに、加えて彼らが子供のように目の前で暴れるものだから、見てる観客が逆に疲れ果てていた。
スズヤは大きな口を開けて欠伸を出しながら「俺がはっきり素直に話せって言ったところ」と緩い声で一言発する。
マナブは「はっきりねぇ」と人差し指で頬を掻き、ぽつり口を開く。だが、またその言葉が遠くの道。スズヤには通じるが、リクトには通じているのであろうか。
「ぶっちゃけ言うと、この前スズヤ狙われたじゃん、顔バレしてたじゃん?」
何を言いたいのかはっきりとせぬ彼の一言に、スズヤは「ああ」っと、なんとなく察しがついた。同時に「また面倒くさいことになり始めたな」と現実を呪う。つまり、彼が言いたい言葉とは以下であろう。
「俺が危ない野郎に目つけられた」
顔が知られたからこそ襲われた先日。
その記憶と先ほどの言葉を照らし合わせれば、頭使わずとも答えられる回答。
だが、マナブは自身の回答を「残念、90点」と点数を差し出す。スズヤを満点にするには、何か言葉足らずなのであろう。
「目つけられたと言うか、既に君喧嘩売ってるから」
「既にって、あの金髪のことか?」
思いもよらぬ繋がりと、また思いもよらぬ回答。
金髪とは前回、スズヤが華麗な回し蹴りを食らわした他校の人間であろう。
だが、正直危ない輩とはとても言いにくい。どちらかと言えばそこら歩くチンピラにしか見えなかった。「はて?」っとスズヤは首をひねる。
生ぬるいスズヤの回し蹴りなど、危ない輩と呼ばれ者であれば普段慣れている。故に、避けるのが無理だとしても咄嗟に防御体制を取ろうと動けるはずだが、あの男は体制など少したりとも動かず、怯んだ。
これがもし、リクトにはやってみようとすれば足が地に着地する前に、自身に回し蹴り返しが食らうことであろう。
「大物のくせに、俺蹴り飛ばせたんだけど」
「正確にはあいつの兄貴がヤバい奴でね」
あぁ、そのパターンですかとスズヤはリクトを目で流す。「はいはい、よくあるパターンですね」と頭の片隅に置きながら見る表情に、気を悪くしたリクトが「何か文句でもあんのか?」と言いたげにガンを飛ばしてくるので、なんでもございませんよと手首で「シッシッ」とする。
「んで、コイツに俺らのチームに入れと」
「野放しより近くにいた方が安全だからね」
それを聞けば「はっ」と馬鹿にした声でわざとらしくリクトが声を出す。
「俺が全部潰せば話しが終わる話しだろ」
「潰せばね、だけど潰せてないだろ?」
「これから潰せば問題無い」
「これからじゃ、手遅れになる可能性があるから言ってるんだ」
「だから、俺を挟んで勝手に話し進めんな」
つまり潰しきれてない連中にスズヤが目をつけられている。また手遅れにと言う姿から、相当恨みを持たれてるに違いない。そんで、見栄張るがリクトが手を焼いてるのが伝わる。
一番重要なのは、リクトすら手を焼く相手に手を出したスズヤ、またリクトの弟であるスズヤ。この二つが平和を邪魔をしているのは確かであること。
「やったものは仕方がないし、別にあんたらから力借りなくても身ぐらい守れる」
「あれの何処が守れてるんだ、てめーが守れてるのは命だけだろうが」
先ほどから喧嘩が強いわけでは無い、守れて無いと言い切る彼らは先日の喧嘩、参戦する前にスズヤの喧嘩を見たのであろうか。嫌、見たとしてもこの前はたまたま普段通りの戦法になっただけ。確かに殴られることに抵抗は無かったが、ぱっと見では気づくことは無い。
スズヤが流れるよう「なんのことだ」と言い返せば速達で「身体中の痣、俺が知らないとでも思ってんのか?」と兄のリクトから返品される。
自身では見えぬが、一瞬スズヤの顔が変化したことであろう。その理由を上げるのであれば、リクトの言葉が嘘デマでもなく真なのがあげられる。
彼には身体中に殴られ蹴られの痕跡が痛々しく残っていた。無論、我が高校の人間では無い。我が高校でリクトに楯突く者は無、だが他校の生徒になれば状況が変わり、身近に感じることの無いリクトは甘く見られること珍しく無い。ましてや弟と知ればなおさら軽い気持ちで喧嘩を売ってくる。
歪んだ日常で身につけた物は、"生きること"だけであり、スズヤにとっての第一条件。そのために背負った怪我など関係の無い話しである。
そんな彼を見通すかのように、横からマナブが「しかも怪我慣れしすぎだからね、あれは」と割り込み、付け足してきた。
「普通は痛みがあれば、人は顔を歪ませるもんだよ。リクトですらきちんと痛がる」
「リクトですら」の言葉の裏側は「いくら化けものでも、怪我をすれば痛がる」と伝えたいのであろう。
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