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外鍵、見張り付きのもてなし
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棗は表向きは客人として、城の半地下にある部屋へ通された。そこは階段を降りて行き着いた、外鍵の付いた扉の先にある一室だけの特別な部屋だった。
室内は十畳ほどの広さに、簡素なベッド、小さなテーブルと椅子、棗でも通り抜けるのは難しい横広の窓が天井近くに有る、茶色の絨毯敷きの部屋だった。室内には、出入り口とは別の扉が一つあり、トイレだと教えられた。
「まだ、王は会議が終わられていない。会うのは明日になります、この部屋に泊まらせるよう指示がありました。」
「え、あの…今日は帰れないんですか…。」
散々広い応接間で待たされた挙句の事だ。ここへ案内したのは老秘書だった。その背後には、馬車に同乗した者とは別の、これまた屈強な兵士が二人立っていて腰に剣を帯びている。そのまま二人は左右に別れ、扉の外の両脇へ張り付くと警備の為に、唯一の通路である階段へ目を光らせた。
「そうですな、暫しこの城に留まって貰わねばなりますまい。」
老秘書は素っ気なく答え、さっさと部屋を出ようとする。
「え、待って下さい!暫くって、」
「食事は後程、ここへ運ばせます。何か用があれば、扉の外に兵士が居るので声を掛けて下さい。」
孫ほどの年端でしかない棗にも丁寧な口調で話すが、それは棗にとって余計に取っ付き難く冷たく感じられた。一礼をして出て行く。
パタンと扉が閉まり、ガチャッと外鍵の掛けられる音がした。
「嘘…閉じ込められたよ…。」
改めて部屋を見回す。どう考えても、来客をもてなすべき仕様の部屋ではなかった。どちらかと言えば、何か後ろ暗い事情のある人物を隠す為の部屋に見える。
しかも、まともに換気もされておらず空気は澱んで、日当たりの悪さも有りカビ臭い。棗の持病には大敵の部屋だった。
「如何して、僕は何をしたの?」
ケホ、っと咳が出る。待たされている間も荷物は返して貰えなかった。今も、手元に薬湯はない。咳が出る度、出された紅茶をちびちびと飲んで、何とか耐えていた。
ケホ、ケホ、
胸の中心に手の平を充てて摩りながら扉へ向かう、コン、コン、と扉を叩いた。
「…すみません、…僕の荷物を…ケホ、…水筒に…薬が…、」
反応がない、聴こえていないのかもしれない。棗はゴホ、ゴホ、と酷くなる咳を押さえながらまた扉を叩いた。
「…っ、薬を、僕の荷物の中、に、ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ、」
段々止めるのが難しくなり、苦しくなってきた。前屈みになりながら、胸元の服を掴む。
「っ、はっ、」
咳の合間に短く浅い息をする、力の入らない手で扉を叩いた。
夜の静けさの中を、明かりを灯した馬車が城へ向かって来た。門番がさっと開門し、馬車が奥へ進む。
マリンは城近くの宿の窓から、露店で買った双眼鏡を使ってその様子を伺っていた。二人は夜の冷え込みに耐えられず、宿を借りて交代で張り込みをしている。
「カイ、馬車が来たわ。何かしら、こんな時間に来訪者なんて。ナツメと何か関係があるのかしら、」
マリンは出窓に寄せた椅子に座って肘をつき、じっと見張りながら、ベッドに横になり休んでいるカイを手招いた。
カイがマリンの隣りに立ち門の奥を見詰めるが、木々が茂り視界を邪魔する上に、距離が遠く裸眼では分からない。
「うーん、よく見えない。…ところでクロガネはどうしたんだろう。先にここへ来てる筈なのに、全然見掛けない。」
そうねえ…、マリンが考える様にして言った。
「…魔物って、迷子になったりするのかしら?」
カイが驚き顏でマリンを見る。マリンも双眼鏡から目を離してカイを見る。二人はどちらともなく笑った。
「え、まさか…それはないだろ。鴉の道案内もあったし…もしくは、どっかで道草くってるとか。」
「そうね、昼寝でもしてたりしてね。」
「ははっ、昼寝って…もうこんな時間だよ。」
「ふふっ、寝過ごして夜になっちゃったとか、」
「それどころか、朝だったりしてね。」
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